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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第七話 ハルケギニア大陥没! (後編) 暗黒星人 シャプレー星人 核怪獣 ギラドラス 登場! エレオノールのキャンプで、一行はささやかなもてなしを受けていた。 「まさか、こんなところまで私のためなんかに来てくれるとは思わなかったわ。さあさ、なんにもないところだけどくつろいでちょうだい」 「あ、はいどうもです」 才人やギーシュがなかば唖然とした顔をして、まだ熱い紅茶を音を立ててすする。ほこりっぽい空気の中に芳醇な香りが流れ、 一行が、出された茶菓子に口をつけると、甘く気品のある味が口内に広がった。 それは、まるで昼下がりの貴族の休日のような優雅な雰囲気……だが、一行は誰一人としてそれを楽しむでもなく、拍子抜けしたように テントを囲んでいた。 いや、実際かなり拍子抜けしていた。まるごと地面の底に沈んでしまった火竜山脈に登ったという、エレオノールらしき女性の安否を 確かめるためにやってきたのだが、実際ほとんど岩石砂漠になってしまったここにいたのでは、いくら彼女が優秀なメイジでも無事で いるのは難しかろうとある程度覚悟をしていた。 それなのに、いざ苦労して見つけ出してみると、エレオノールはまったくの無傷であった。しかも、機嫌がいいのか妙に態度が優しくて、 いつもの男勝りで厳しい姿を見慣れていたギーシュたちは、小声でヒソヒソと話し合っていた。 「おい、ミス・エレオノールどうしたんだ? やっぱり岩で頭でも打ったのかね」 「うーん、学院に最初にやってきたときはあんなもんだったが、結局素を隠せなかったしなあ。もしかして、ついに婚約が決まったとか」 「いや、百歩譲ってもソレはないと思うが」 失礼を通り越して叩き殺されても文句を言えないようなことをギーシュたちはささやきあっていたが、ある意味では無理からぬ話である。 エレオノールの猫かむり、というか貴族が対外的に態度を使い分けるのは当然のことだとしても、なぜそれを今さら自分たちに見せる 必要があるのだろうか? エレオノールと仲がいいルクシャナなどは露骨に不快な顔をしている。からかっているのか? しかし怖くて 誰も言い出せなかったところで、妹のルイズが思い切って言い出した。 「お姉さま、もてなしはこれくらいでいいですから教えてくださいませんか? なぜこんなところにいらしていたんですか? お姉さまほどの 人物が、単なる地質調査のためなんかに派遣されるわけがないでしょう」 皆は心中でルイズに礼を言った。この異様な空気から逃れられるのはなによりありがたい。 エレオノールは、紅茶のカップを置くとおもむろに話し始めた。 「みんな、ここ最近ハルケギニアの各地で起こっている異変を知っているかしら?」 「異変、ですか? まさか、ここ以外でも!」 「そうよ。今、ここだけじゃなくトリステインを含むあちこちで異常な地震や陥没が頻発しているの。最初は辺境の山岳地帯や、 無人の森林地帯が一夜にして消えてなくなって、鈍い領主はそれでも気に止めてなかったんだけど、とうとう村や城まで沈み始めて 慌ててアカデミーに調査依頼が来たというわけなの」 そうだったのか……一行は、知らないところですでにそんな大事件が起こっていたのかと、のんきに旅行気分で東方号に乗ってる 場合じゃなかったと思った。思い出してみれば、東方号がトリステインを出発する時にエレオノールがいなかったのは、このためであったのか。 つまり、火竜山脈にやってきたのも偶然ではないのかと尋ねると、エレオノールは首を縦に振った。 「無闇に発表するとパニックが起こるから王政府の意思で伏せられているけど、今、魔法アカデミーの総力をあげて原因究明が おこなわれているわ。国外にも多くの学者やメイジが派遣されて、私は火竜山脈担当だったというわけ。まさか、調査中に自分が 被害に会うとは思わなかったけどね」 「それは、大変でございましたね。それで、山が沈む原因は解明できたのですか?」 核心への質問がおこなわれると、エレオノールは一呼吸をおいて指で足元を指して言った。 「ええ、一応の仮説は立てていたけど、ここに来て確信が持てたわ。原因は、地下深くに埋蔵されている風石が一気に消失 したことによる地盤沈下よ」 「風石ですって!? ですが、火竜山脈にはそれほど規模の大きい風石鉱山はないのが常識ではなかったですか?」 「人間が通常に採掘できる鉱脈はごく浅いところだけよ。知られていないけど、さらに地下数百メイル下には膨大な量の鉱脈が 眠っているわ。それこそ、ハルケギニアの地面を埋め尽くすくらいにね」 まさか……と、ルイズは足元を見た。そんなこと、どんな授業でも習わなかったが、それが本当だとすれば、自分たちの住んでいる ハルケギニアは巨大な風石の海の上に浮いている浮き島のようなものだということになる。地下水の汲み上げすぎでも、時には 地上が歪むほどの地盤沈下をもたらすことがあるんだから、それほどの鉱脈が消失したとしたら。 「つまり、地下の風石がなくなったから、上の岩盤も支えを失って……」 「そう、まずは重量のある山岳地帯が陥没を始めたという事よ。 一行は呆然として、ふだんなにげなく踏みしめている地面を見つめた。よく見ると、石や砂に混ざって風石の欠片がキラキラと 光っている。それこそ説明されるまでもなく、この山脈の地底にあった大量の風石の残骸に違いなかった。 そして恐ろしい真相は、さらに恐ろしい未来図を連想させた。 「ちょ! その風石の鉱脈はハルケギニア全体に広がっていると言いましたよね。じゃ、いずれは」 「ええ、遠くない将来に……ハルケギニアは丸ごと陥没して、地の底に沈んでしまうでしょうね」 音のない激震が全員の中を駆け巡った。ハルケギニアが沈む? そんなバカなと否定したいが、今日自分たちがその目で 見てきた事実がそれを動かしようもなく肯定していた。火竜山脈が平地と化してしまうような変動が人里を襲ったとしたら、 そこにあるのはもはや災害というレベルではすまされない。 ハルケギニアが沈む。つまり、自分たちの故郷トリステインにあるトリスタニアの街並みも、魔法学院やひとりひとりの家々も 何もかも残さず大地に飲み込まれて消滅する。むろん、ガリアやゲルマニアも同じように壊滅し、アルビオンを除いてハルケギニアは 人の存在した痕跡すらない岩石ばかりの荒野と化してしまうのだ。 ルイズはここにティファニアを連れてこないでよかったと思った。こんなとんでもない話を聞かせたら、あの子なら卒倒していたかも しれない。というよりも、こんな事実が公になったらハルケギニアは破滅的なパニックに包まれてしまうに違いない。 だが、なぜその風石の鉱脈が消失したかと尋ねると、エレオノールは「それは私にもまだわからないのよ」と、言葉を濁した。 けれども、才人はここで事件のピースが組みあがっていくのを感じた。 「そうか、町の子供たちが見かけたギラ、いや怪獣は地下の風石鉱脈を食べていたんだ」 「なんですって! 今、なんと言ったの」 才人はエレオノールに、怪獣が地下に潜るのが目撃されていたことを伝えた。すると、エレオノールは明らかに動揺した 様子を見せて言った。 「そ、そう、怪獣を見た人がねえ。でも、子供が見た事だっていうし、見間違いじゃないの?」 「何人もが目撃してますし、その後に恐ろしい叫び声を聞いたという話もありました。なにより、こんなとんでもない事件を 引き起こせるのは怪獣でもなければ無理だと思います」 才人はぴしゃりと言ってのけた。ほかの面々も、これまでに何度も怪獣の起こす怪事件と向き合ってきただけに、才人の 言うことが妥当だろうとうなづいている。 「そ、そう……」 なのに、同等の経験を持つはずのエレオノールだけが納得していない様子で、才人ら一部はどことなく違和感を感じた。 アカデミーでデスクワークをしているうちに勘が鈍ったのか? いや、男性がついていけないくらいに何事にも積極的な エレオノールに限ってそれはない。ならば、なにが……? どことなく居心地の悪い沈黙が場を包んだ。喉に魚の骨が刺さったままのような、吐き出したいけどできない不快な感触。 しかしルイズはそんな悪い空気を吹き払うように陽気な様子で言った。 「もうみんな、なにをそんなに疑った顔をしてるの? エレオノール姉さまはトリステイン一高名な学者でわたしの自慢の 姉さまなのよ。変な目で見たりしたら、このわたしが許さないんだから」 「お、おいルイズ?」 これには才人たち、ほとんどの者が面食らった。エレオノールもだが、ルイズも変になったのか? が、ルイズが凄い目で 睨んでくるため言い出すことができないでいると、エレオノールがルイズに話しかけた。 「まあルイズ、あなたはなんて素晴らしい妹なのかしら。私はあなたを誇りに思うわ!」 「妹が姉の誇りを守るのは当然のことですわ。それよりも、わたしたちもお手伝いいたします。これだけの人数がいるのですわ、 お姉さまの下で手分けして捜せば、たとえ相手が地の底に潜んでいても兆候は見つけられるでしょう。相手も、いずれは 地上に出てこなければいけなくなるでしょうから、正体を見極めて通報すれば軍が討伐隊を出してくれますわ」 「そ、そうね。さすがは私の妹だわ。そうしましょう」 「はい、お姉さま。あら、しゃべったら喉が渇いてしまいました。すみませんが、お茶をもう一杯いただけませんか?」 「ええ、もちろんいいわよ」 エレオノールがティーポッドを持ち、ルイズのカップに紅茶を注いだ。湯気があがり、カップに口をつけたルイズの顔が 白く隠れる。その湯気の影から、薄く開いたとび色の瞳が才人に向けられて、彼ははっとした。 そうか、なるほどルイズそういうことか。ついていけずに呆然としている一行の中で唯一才人だけがなにかを理解した目で、 それを悟られないように伏せていた。他の者は、多かれ少なかれ何かを腹の内に持っていても、はばかってそれを口にすることを ためらって、じっとルイズたちの動向を見守っていた。 結果、一行は数人ずつに分かれて火竜山脈跡を探索することになった。 「よし、各員散って周辺の探索に当たれ。ただし、三時間後に何もなくてもここに戻っていろ。暗くなる前に山を下りないと危ない」 「なにかを見つけた場合の合図はどうしますか?」 「信号用の煙玉を各自持ってるだろう? 扱いは火をつけるだけの簡単な奴だからこれを使えばいい。では、全員散れ!」 ミシェルの号令で、一行はそれぞれバラバラの方向へとクモの子を散らすように飛び出していった。 編成は、基本は銃士隊と水精霊騎士隊がひとりずつ組んで、どの組にも必ずメイジが一人はいるようになっていた。ただし、 才人とルイズは例外で、エレオノールと組んで三人で探索に出ることになった。 散り散りになって岩の荒野の底に潜む怪獣を求めていく戦士たち。先日の金属生命体のときと違い、仲間も武器もない 追い詰められた状態ながらも、自分たちの故郷がこの荒野と同じになるかという瀬戸際なのだ。手段が限られていても 気合の入りようが違う。 「くっそお、人の足の下でこそこそしてるシロアリ野郎め。頭を出したらぶっ叩いてやる」 ハルケギニアの屋台骨をこれ以上食い荒らされてはたまったものではない。しかし、相手がそれほど深い地底を自由に 動けるというのなら先住魔法でも探知はまず不可能で、砂漠で蟻の巣を探すような無謀な行為でしかないと誰もが思うだろう。 しかも、彼らにはそれとは別に心の内に引っかかっていることがあった。 ”まさか、まさかだが、あの人はひょっとしたら……? 万一そうだとしたら、自分たちはとんでもないミスを犯したのではないだろうか” 誰もが胸の奥から鳴り響いてくる警鐘に、多かれ少なかれ悩まされていた。しかし、思ってはいても口に出せない事柄というものは 存在する。裸の王様がいい例ではあるが、言い出しそこねたという後悔の念は時間が過ぎていくにつれて強くなっていった。 火竜山脈跡は平坦になったとはいえ、家ほどもある岩石がゴロゴロしていて、少し離れると別の組の姿はすぐに見えなくなった。 岩の間には風が流れて反響しあい、声を出しても遠くに響く前にかき消されてしまう。これでは、もしなにか起きたとしても誰にも 気づかれないのではないだろうか? 本能的にそんな不安が胸中をよぎり、ミシェルと同行していたルクシャナがぽつりと言った。 「ねえ、あなた。わたしたち、こんなことしてていいのかしらね?」 「どういう意味だ?」 「とぼけないでよ。あなただって当に感ずいてるんでしょう? わたしだって、言えるものならさっき言い出したかったんだけど、 確証もなしにそんなことを言ったら不和と疑心暗鬼を招くことくらいわたしだって承知してるわ。なにより、言い出して外れてたとき、 大恥をかくのはわたしなのよ!」 一気にまくしたてたルクシャナの顔には、不満といらだちが満ち溢れていた。学者の彼女にとって、言いたいことを飲み込まなくては ならない我慢がどれだけ耐え難いものかは、短からず彼女と付き合ってきたミシェルには十分理解できた。 「気持ちはわかる。わたしとて、途中から少なからぬ疑惑を抱いてはいた。しかし、確たる証拠もなしに友人を侮辱するような 真似はできない。あるいは、それを計算していたとしたら相当悪質ではあるな」 「わかってる割には落ち着いてるじゃない。もしかしたら、袋のネズミにされてるのはこっちかもしれないのよ? よくまあ 平然とした顔でいられるわね。ほんとにわかってるの? 今、一番危ないのは、あんたの惚れた男なのよ」 「恥ずかしいことを大声で言うな。わかっているさ、そしてわたしやお前にわかっていることなら、大方あのふたりもとっくに わかっているはずだ。必ずやってくれるさ、あいつらならな」 ミシェルはそれで話を打ち切った。ルクシャナは呆れた顔で、「あんなとぼけた顔のぼうやのどこがいいのかしらねえ? まあアリィーもそんなに差があるわけじゃないかな」と、あきらめたようにつぶやいていた。 彼女たちの胸中を悩ます不安要素。それは放置すれば、ガン細胞のように取り返しのつかないことになるのは わかっていたが、誰にも手術に踏み切る物的証拠がなかった。 ただし、一方でそうは思っていない者たちもいた。エレオノールに着いていった、才人とルイズのふたりがそれである。 三人は、ほかの一行と分かれた後で、特に当てもなく前へ進んでいた。ギラドラスがどこに出現するかは予知できないので、 エレオノールの土メイジとしての直感と、目と耳だけが頼りのあてずっぽうである。と、表向きはなっていた。 歩くこと数十分、もう他の組とは大きく距離を離れ、なにかがあったとしても他の組が駆けつけてくるには十分以上は かかってしまうであろう。そこを、エレオノールを先頭に三人は歩いていたが、ふいにルイズが話し掛けた。 「ねえ、エレオノールおねえさま、どうしてさっきから黙ってらっしゃるんですか? いつもなら、貴族としてのありさまがどうとか、 歩きながらでもお説教なさるくせに」 「そ、それは、あなたも立ち振る舞いが優雅になってきたから必要ないと思ったからよ。う、うん! 立派になったわね」 明らかに動揺していた。ルイズは、口だけは「ありがとうございます。お姉さまにお褒めいただけるなんてうれしいですわ」 などと陽気に言っているが、目だけはまったく笑っていなかった。 「ところで、この間のお手紙に書いてあった、新しいご婚約者の方とはうまくいってますの?」 「え、ええ! それはもちろんよ。待っててね、結婚式には必ず招待するからね」 にこやかにエレオノールは言い、ルイズと才人は笑い返した。 しかしこの瞬間、ふたりは最後の決意を固めていた。エレオノールの視線が外れると、ふたりは目配せしあって懐に手を入れた。 やがて、もうしばらく進むと、ひときわ大きな岩が壁のように聳え立っている場所に出た。 「これはまた、でかい岩だな」 高さはざっと十メートルほど、それが垂直にそびえ立っていて、少しくらい運動ができる程度で乗り越えられるものではなかった。 魔法が使えれば楽に飛び越えられるが、虚無一辺倒でコモンマジックも十全に扱えないルイズにはフライも使えないし、 テレポートをこんなことのために乱用するのはもったいなさすぎた。 すると、エレオノールが岩の上にひらりと飛び乗った。 「あなたたちは飛べないのよね。さあ、引っ張り上げてあげるからロープを掴みなさい」 岩の上から下ろされたロープが才人とルイズの前でゆらゆらと揺れる。その頂上ではエレオノールがにこやかな顔をしながら 二人がロープを掴むのを待っていた。 しかし、ふたりはどちらもロープに手を伸ばすことはせずにエレオノールを見上げると、ルイズは強い口調で言い放った。 「そして、引き上げかけたところでロープを離せば、まずは邪魔者ふたりを始末できるというわけかしら? ニセモノさん!」 「なっ、なに!」 エレオノールの顔が驚愕に歪んだ。そしてふたりは追い討ちをかけるように言い放つ。 「バーカ、とっくの昔にバレてるんだよ。まんまと騙せてると思って、演技してるお前の姿はお笑いだったぜ!」 「エレオノールおねえさまに婚約者なんてできるわけないのよ。ボロが出るのを恐れて話を合わせたのが運のつきだったわね」 「おっ、おのれえっ。騙したなあっ!」 逆上した顔だけは本物にそっくりだなとルイズは笑った。が、猿芝居に付き合ってやるのもここまでだ。 「さあ、とっとと正体を現したらどう? 地下の怪獣を操ってるのもあんたなんでしょう!」 「人間の分際で、バカにしやがって! いいだろう。こんな窮屈な姿はこれまでだ!」 そう吐き捨てると、エレオノールのニセモノは懐から銀色をした金属製のプレートのようなものを取り出して左胸に当てた。 瞬間、白煙が足元から吹き上がって姿を隠す。そして煙の中から全身が金と銀色の怪人が現れた。 「俺様は、暗黒星雲の使者、シャプレー星人だ!」 ついに本性を表したニセエレオノール。その正体は、本物とは似ても似つかない銀のマスクののっぺらぼうであった。 暗黒星人シャプレー星人。その記録は才人の知るドキュメントUGにもあり、当時は地質学者の助手に化けて暗躍し、 地球のウルトニウムを強奪しようとしていた、宇宙の姑息なこそ泥だ。 「やっぱりお前だったかシャプレー星人! ハルケギニア中の風石を奪ってどうするつもりだ!」 才人が怒鳴ると、シャプレー星人は肩を揺らしながら答えた。 「フハハハハ! 貴様ら人間どもはそんなこともわからんのか。貴様らが風石と呼ぶ、この鉱石は宇宙でも極めて珍しいくらいに、 反重力エネルギーを大量に蓄積した代物だ。人間どもはおろかにも、これほどの資源を風船のようにしか使えておらんが、 効率よく加工精錬すれば強大なエネルギー資源になりうるのだ。それこそ、兵器利用のために欲しがる宇宙人はいくらでもいるわ!」 「風石を、侵略兵器に悪用しようっていうのか。ゆるさねぇ! それもヤプールの差し金か?」 「フン! ヤプールはいまごろボロボロになった自分の戦力のことで手一杯だろうよ。俺は最初から、あんなやつの下っ端で 働くなんてまっぴらだったんだ。風石をいただくだけいただいて残りカスになったら、こーんな最低な星にはなんの未練もないわ」 なるほど、つまりヤプールの支配力が衰えた隙を狙って動き出した雇われ星人ということかと才人は察した。ヤプールは、 独自の配下として複数の宇宙人を従えているが、それだけでは限りがあるので、直接的に隷属させてはいないがかなりの 宇宙人に声をかけ、誘惑して利用しているのは前からわかっていた。 しかし、いったんヤプールの支配が弱まってしまえば、無法者たちは一気に好き勝手に暴れだす。 「どうりで、前に地球に現れた奴に比べたら頭が悪いと思ったぜ」 「なに!? そうか、お前がヤプールの言っていた地球から来た小僧か。これはちょうどいい、一番の邪魔者がのこのこ自分から やってきてくれるとはな。まずはお前から血祭りにあげてやる」 開き直ったかと才人は思った。やはり同族の宇宙人といえども、性格はメフィラス星人の例にもあるとおり差はあるようだ。 地球に現れた個体は計算高く、偶然が味方してくれなければ正体を突き止めることすら難しかったくらい周到に暗躍していたが、 こいつはヤプールの口車に乗るだけあって浅慮で詰めの甘いところが目立った。 こんなやつがエレオノールお姉さまに化けてたなんて。決して仲がいいとは言える姉ではなくとも、ルイズも忌々しそうに言った。 「ハイエナのくせに偉そうにしてくれるじゃない。よくもエレオノールお姉さまの顔を騙ってくれたわね。本物のお姉さまはどうしたの?」 「別にどうもしないさ。トリステインで、学者どもが飛び回っているといったろう? あれは嘘でもなんでもない。当然、本物も 毎日のようにあちらこちらを飛び回ってどこにいるかわからん。つまり、同じ人間がふたりいても、まず気づかれはしないということさ」 「お姉さまの多忙さを利用したってわけね。確かに、それなら本物が忙しく飛び回ってくれてたほうがニセモノも大手を振って 歩き回れるわけ。なるほど、本物のエレオノールお姉さまが聞いたら激怒するでしょうけど、そうやって人々の目を欺きながら 自由に怪獣を操っていたのね。ハルケギニアから盗み出した風石は返してもらうわよ!」 するとシャプレー星人は愉快そうに笑った。 「ハハハ! 残念だったなあ。すでに地下の風石の半分以上はこの星の外に運び出しているのだ。いまごろ気づいたところで 取り返せやしないんだよ。ざまあみろ!」 「なんですって! それじゃあ、ハルケギニアの地殻は!」 「今のところはかろうじて安定しているが、それも時間の問題だな。あと少し採掘すれば、地殻は一気に崩壊し、少なくとも 大陸全土がこの山のように沈んでしまうのは間違いないなあ」 才人とルイズは戦慄した。ハルケギニアが根こそぎ地の底へと沈んでしまう? 絶対に、これ以上の採掘は阻止しなくてはならない。 ルイズは杖をシャプレー星人に向けて言い放った。 「エレオノールお姉さまを侮辱してくれた報いは妹の私がくれてやるわ。悪いけど、優しくしてもらえると思わないでね」 「チィ、まさか妹がやってくるとは想定外だったぜ。しかし、俺の変身は完璧だったはず、どこで気づいた?」 「ふっ、確かに姿だけは完璧だったわ。でもね、あんたは内面のリサーチが足りてないのよ。おしとやかなエレオノール お姉さまなんて菜食主義のドラゴンみたいなものよ。そして、あんたは決定的なミスを犯したわ。それは……」 そこでルイズは一呼吸起き、思いっきり胸をそらして得意げに言った。 「本物のエレオノールお姉さまはねぇ、絶対わたしにお茶なんか出してくれないのよ! あっはっはっはっは! ん? サイト、 なんでコケてんのよ?」 「虐待されとることを自慢すな、アホッ!」 まさにあの姉にしてこの妹ありだった。神経の太さは並ではないと、才人はずっコケながらほとほと思うのである。 よりにもよってエレオノールに化けたのが本当に運のつき、この規格外れの姉妹にそう簡単に入り込めるはずがない。 シャプレー星人は唖然とし、次いで激怒して叫んだ。 「貴様ふざけやがって! 覚悟しろ!」 「覚悟するのはあんたのほうよ! あんたを倒して大陥没を止める」 「ここで死ぬ貴様らには無理だ!」 シャプレー星人は光線銃を取り出して、才人たちも迎え撃つべく武器をとる。 交差するシャプレーガンとガッツブラスターの光弾。しかし双方とも発射と同時にその場を飛びのき、外れた弾が岩に 当たって火花を散らした。 「外れた!?」 「避けおったか、しゃらくさい!」 どちらも銃撃を連射するが、十メートルもある岩盤の上と下なので当たりずらい。だが、ならば互角かといえば、才人の ほうはエネルギーの関係で実弾練習がほとんどできなかっただけ分が悪い。 しかも、シャプレー星人は光線銃だけでなく、草食昆虫のような口を開いて、そこからも光弾を放ってきたのだ。 「ちくしょう! 手数が違いすぎる」 雨あられと降り注ぐ光弾に、才人は避けるだけで精一杯だった。シャプレー星人はさらに調子に乗り、池のカエルに 石を投げるように銃撃を加えた。 「ウワッハッハッハ、逃げろ逃げろ、虫けらめ! ヌ? ヌワァッ!」 突如、爆発が起こってシャプレー星人を吹き飛ばした。半身を焦がした星人の目に映ったのは、杖の先をまっすぐに 向けて睨みつけてくるルイズだった。 「サイトにばかり気をとられてるからよ。まだエクスプロージョンを撃てるほど回復してないけど、あんたに町や村を 壊された人たちの痛みを少しは知りなさい」 不完全版エクスプロージョンの威力は必殺とはいかなかったが、不意をつくには十分だった。なにせ、なにもない ところが突然爆発するのだから回避は大変難しい。シャプレー星人は、この星のメイジが使う魔法は系統はどうあれ、 おおむね飛んでくるものとばかり思い込んでいたから、銃を持っている才人を先に狙ってルイズを後回しにと判断したのが 見事に裏目に出た。 才人も体勢を立て直して、ガッツブラスターからエネルギー切れのパックを取り出して新品を装填した。 「ナイスだぜルイズ! よーし、あいつの弱点は目だ。目を狙え」 「目ってどこよ!?」 とのやり取りがありながらも、星人の鎧を着込んでいるような体はよく打撃に耐えた。しかし、体は耐えられても ダメージを受けたシャプレー星人は逃げられない。 「お、おのれぇ。ならば、また貴様の姉の姿になってやる。これで攻撃できまい」 「あんたバカぁ? むしろ日ごろの恨み!」 ニセモノだとわかっているから、遠慮会釈のない爆裂の嵐が吹き荒れる。そのときのルイズの気持ちよさそうな顔ときたら、 いったいどれだけ恨みつらみが重なってるんだよと才人が心配するほどであった。 変身を維持できなくなってボロボロのシャプレー星人に、才人は介錯とばかりに銃口を向けた。 「これでとどめだ!」 「まっ、待て。お前の、影を見……」 「その手品は種が割れてんだよ! くたばりやがれ!」 悪あがきも通じず、銃撃と爆発が同時に叩き込まれた。その複合攻撃の威力には、さしものシャプレー星人の頑丈な体も 耐えられず、星人は炎上しながら岸壁を墜落していった。 「くっそぉぉーっ! 俺がこんなやつらに。ギラドラース! 俺の恨みぉぉぉ!」 地面にぶつかり、シャプレー星人は四散した。 だが、星人の断末魔と共に大地が激震し、地底から凶暴な叫び声が響いてくる。 「出てきやがるぞ。あとは、こいつさえ倒せばハルケギニアは沈まずに助かる! ルイズ」 「ええ、仕上げにいきましょう」 「ウルトラ・ターッチ!!」 岩の嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAが大地に降り立った。 続いて、猛烈な地震を伴いながら、赤く輝く角を振りかざして核怪獣ギラドラスが地底から現れた。 来たな! エースは前方百メートルほどに出現したギラドラスへ向かって構えをとった。四足獣型の体格でありながら 前足のない独特のスタイル。黒色のヤスリのようなザラザラした肌、背中にも明滅する赤い結晶体。間違いなく奴だ。 睨みあうエースとギラドラス。両者の巨体とギラドラスの叫び声が、遠方にいる仲間たちも呼んだ。 「ウルトラマンだ! 怪獣と戦ってるぞ」 「あっちはサイトたちが行った方向じゃないか。よし、助けにいこう」 全員がいっせいに同じ方向へと急いだ。全部のペアにメイジが含まれているので、フライの魔法を使って飛ぶ速さは 岩だらけの中を走るより断然速い。 しかし、彼らが才人たちのもとへ急ごうと飛び立って間もなく、ギラドラスが空に向かって大きく吼えた。次いで角と 背中の結晶体が強く発光すると、突如として暴風が吹き荒れて、降るはずのない雪が猛烈な吹雪となって荒れ狂いはじめた。 「うわあっ! なんだ急に天気が!」 「吹き飛ばされる! みんな、下りて岩陰に避難するんだ」 ブリザードが周囲を覆い、エースとギラドラス以外は身動きがとれない状況になってしまった。 この異常気象、もちろん自然のものではない。才人はすでに、ギラドラスの仕業に気づいていた。 〔あいつは天候を自由に操る能力があるんだ。くそ、あんなのをほっておいたら沈まなくてもハルケギニアはめちゃめちゃに されてしまうぞ!〕 聞きしに勝る強烈さ、ギラドラスは地底に潜れば地震に陥没、地上に出てくれば大嵐を引き起こす、災害の塊のような 奴なのだ。こんなぶっそうな怪獣をほっておいたら、寒波、豪雪、干ばつ、台風、人間の住める世界ではなくなる。なんとしても、 こいつはここで倒さなくてはいけない。 「シュワッ!」 吹雪の中で、エースはギラドラスに挑みかかっていく。キックがギラドラスのあごを打ち、噛み付いてきたところをかわして 脳天にチョップからの連続攻撃を当てていく。 〔こないだのときと違って、体力はいっぱいよ。ぜったい負けやしないんだから〕 〔だけど、この寒さじゃ長くはもたないぞ。それに、下のみんなが凍死しちまう!〕 〔ええ、不利になる前に一気に決めたほうがよさそうね〕 ウルトラ戦士は強靭な肉体を持つが寒さには弱い。猛吹雪の中、太陽光もさえぎられたここは最悪のフィールドだといえる。 過去、エースも雪男超獣フブギララや雪だるま超獣スノギランとの戦いでは寒さに苦しめられている。いくらエネルギー満タンの 状態でも、長期戦には耐えられないのはエースも当然承知していた。 〔悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぞ!〕 苦い経験を何回も繰り返すつもりはない。エースはギラドラスの背中に馬乗りになり、パンチを連打してダメージを蓄積させていった。 が、ギラドラスも黙ってやられるつもりはむろんない。太く長い尻尾を振るってエースを振り落とし、雄たけびをあげて頭から 体当たりを仕掛けてきた。 「ヘヤアッ!」 エースはギラドラスの突進に対して、とっさに敵の頭の角を掴むと、突進の勢いをそのまま利用して投げを打った。 巨体が一瞬浮き上がり、次の瞬間ギラドラスは背中から雪をかむった岩の中に叩きつけられる。 〔どうだっ!〕 こいつは効いたはずだ。才人も混じって受けた水精霊騎士隊の格闘訓練での、銃士隊員のひとりから投げ技を 受けたときには、呼吸ができなくなって本当に死ぬかと思った。ルイズも昔、いたずらしたおしおきでカリーヌに竜巻で空に 舞い上げられて落とされた痛みが、寒気といっしょに蘇ってきた。 案の定、ギラドラスは大きなダメージを受けてもだえている。しかし、なおも角を光らせて天候を荒れ狂わせて攻めてきた。 吹雪がさらに強烈になり、エースの体が霜に染まって凍りつき始めた。 〔ぐううっ! なんて寒さだ〕 すでに気温は氷点下数十度と下がっているだろう。それに加えて台風並の強風が、あらゆるものから熱を奪っていく。 エースはまだ耐えられる。しかし、ろくな防寒装備もない下の人間たちはとても耐えられない。 「ギ、ギーシュ、ま、まぶたが凍って開か、な……」 「レイナール! 目を開けろ。寝たら死ぬぞぉ!」 「ミ、ミス・ルクシャナ、もっと風を防げないのか?」 「無茶言わないでよ副長さん! わたしたちだって必死にやってるのよ。今、この大気の防壁の外に出たら、あっという間に 氷の彫像になっちゃうわよ」 もうほとんどの者が手足の感覚がなかった。あと数分もすれば凍傷が始まって、やがては低体温症で死にいたる。 もはや、一刻の猶予もない! エースは自身も白く染まっていく身に残った力を振り絞り、ギラドラスへ最後の攻撃を仕掛けていった。 「ヌオオオオォォォォッ!!」 体当たりと噛み付きを仕掛けてくるギラドラスの攻撃をいなし、首元に一撃を加えて動きを止める。 〔いまだ!〕 チャンスはこの一瞬! エースはギラドラスの腹の下から巨体を持ち上げる。高々と頭上に掲げ、全力で空へと投げ捨てた。 「テヤァァァッ!」 放り投げられ、空高く昇っていくギラドラス。エースはありったけのエネルギーを光に変えて、L字に組んだ腕から解き放った。 『メタリウム光線!』 光芒が直撃し、膨大な熱量はギラドラスの肉体そのものをも蒸発させ、瞬時に千の破片へと爆砕させた。 閃光と、それに続いて真っ赤な炎が天を焦がす。爆音にギラドラスの断末魔が混じっていたか、それもわからないほどの 衝撃波が大地をなでて積雪を吹き飛ばしていくと、次の瞬間、空一面を青い幻想的な輝きが覆った。 「おおっ」 「すごい、きれい……」 空一面に、星のように小さな無数の光が舞っていた。皆は、寒さに凍えていたことも忘れてその光景に心を奪われた。 青と銀色のコントラストはどこまでも美しく透き通っていて、まるでオーロラを砕いて散りばめたようである。 いったい、この空を覆う星雲のような輝きはなんなのか? エースにもわからないが、邪悪な気は感じないので見つめていると、 ルクシャナがはっとしたように叫んだ。 「これ、風石だわ! 風石のかけらなのよ!」 そう、ギラドラスが体内に蓄えていた大量の風石が、爆発のショックで細かな破片となって飛散したのが、この光景の正体だった。 風石は精霊の力が形となったといわれているだけあって、いつまでも舞い降りてくることなく空にあり続け、やがて自然界の 秩序を守る精霊の意思を受け継いでいるかのように次なる奇跡を起こした。ギラドラスの巻き起こした嵐の雲に、風石の破片雲が 接触すると、まるで悪の力を相殺するかのように黒雲を消し去ってしまったのである。 「おお! 嵐がやんでいくぜ」 「あったかくなってきたわ。これで凍死しないですむわよ。やったあ!」 天候が急速に回復していき、皆から喜びの声があふれた。いまだ空は虫の群れに覆われており、本物の空は見えないが 一応の平穏が戻った。 風石の見せてくれた神秘の力。しかしこれも、元を辿ればハルケギニアの自然が長い年月をかけて作り出したものなのだ。 決して宇宙人のいいようにされていいものではない。資源を欲にまかせて掘り返し続けて、大地を枯らせてしまった後には 何も残りはしないのだ。 シャプレー星人の邪悪な陰謀は打ち砕かれた。エースは空へと飛び立ち、風と共に戦いは終結を告げる。 「ショワッチ!」 これで、ハルケギニアの土地がこれ以上沈降することはないはずだ。火竜山脈はもう元には戻らないが、ギリギリ被害を 最小限に抑えられたと思っていいだろう。 才人とルイズは皆と合流すると、事の顛末をまとめて報告した。 「なるほど、やっぱりあのミス・エレオノールはニセモノだったのか。しかし、我々も怪しいとは思ったが、あまりにも怪しすぎて 手を出せなかった。まんまと罠にはめるとは、さすがだなルイズは」 「うふふ、まあねえ」 ほめられて、鼻高々なルイズであった。才人は、まあ少し呆れながらも、今回はルイズの功績が大だったので、文句も 言わずに見守っている。 「まったく、褒められるとすーぐ頭に乗るんだからなあ。けど、今回はルイズを敵に回すと恐ろしいってのがよくわかったよ。 シャプレー星人も化けた相手が悪かったとはいえ、ちょっと同情するぜ」 「聞こえてるわよサイト。でもま、今日は気分がいいから大目にみてあげるわ。でも、ヤプールが眠っていても安心できる わけじゃないってのもわかったわね」 「ああ、これから先もなにが起こるか、油断は禁物だな」 ヤプールの統率を離れて勝手に動く宇宙人もいる。災いの芽は、どこに隠れているかわからない。 そう、地球に勝るとも劣らない美しいこの星は、常に狙われているのだ。 いかなる理由があろうとも、侵略は絶対に許されない。しかし、平和は黙っていても守れるものではない。強い意志で、 痛みに耐えてでも悪と戦いぬいてやっと維持できる危うく儚いものだということを忘れたとき、人々の幸せは簡単に 踏みにじられてしまう。 今回の事件は、そのことを思い出すいい機会だった。なにせ、誰もあって当たり前と思っていた地面をなくそうとしていた 敵まで現れたのだ。侵略者は、人間のありとあらゆる油断をついて攻めてくる。絶対に安全なんてものはないんだということを、 みんながあらためて思い知った。 そして、今この世界は何者かの手によって闇に閉ざされ、滅びの道を歩んでいる。ハルケギニアに住む者として、 この脅威を見過ごすことは断じてできない。 「さあ、これでこの事件は片付いたわ。町に帰りましょう、きっとテファが心配してるわよ」 「おおーっ!」 思わぬ足止めを食ったが、もう大丈夫だ。町の人たちも、早く帰って安心させてあげないといけない。 一行は、意気揚々と町への帰路についた。 が、彼らの心はすでにここにはない。前途をふさいでいた難題が解消した今、行くべき道はひとつしかないのだ。 「今日はゆっくり休んで、明日には国境を越えましょう。幸い、山越えはしないですむみたいだしね」 異変の元凶がある南の地。そこになにが待ち受けているとしても、引き返すという選択肢は誰の心にもない。 目指すロマリアは、もはや目前へと迫っている。 そこで待つ運命の指針は、まだ正義にも悪にも、振れることを決めかねているようであった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十七話「ハーフエルフの娘」 隕石小珍獣ミーニン 悪質宇宙人レギュラン星人 登場 入室してきた金髪の少女へと顔を上げた才人は、途端に硬直した。彼女の美貌に……容姿に、 思わず心を奪われてしまったのであった。少女の顔立ちは、宇宙一美しいと言われる 怪獣ローランもかくやというほどだった。 しかしそれ以上に目を引くところが、胸であった。何という大きさであろうか! 才人は生涯に これほど大きな女性の胸というのは見たことがなかった。魔法学院一と謳われるキュルケ以上。 たとえばルイズとは、最早比べることすらおこがましい。これぞ大怪獣サイズだ。 「ば……バスト・レヴォリューション!?」 才人はそんなことまで無意識下に叫んでいた。だがそれで少女がビクリと震え上がった。 怖がらせてしまったか。 「ほ、本当に大丈夫? さっきから変なこと言ってるけど……」 「あ、ああいや、大丈夫だよ。今直面してる現実に色々と驚いただけだから」 適当にごまかした才人はベッドから起き上がろうとする。しかし大分長いこと眠っていて、 身体がなまったからか、ふらついて倒れそうになる。 「わわッ……!?」 「あ、危ない!」 傾いた身体を、少女が受け止めてくれた。その際の衝撃で、少女の金色の髪がはだけて、 隠れていた耳が露わになった。 ツンと尖っていて、見慣れない形だ。物珍しさから才人が凝視すると、少女は慌てて自分の耳を両手で隠した。 「ご、ごめんなさい」 「え?」 「でも、安心して。危害をくわえたり、しないから」 何を言われているのかよく分からなかった。もしかして、自分が怖がっているとでも思われたか。 「違う違う。あまり見ない形の耳だから、つい見つめちゃって」 その言葉で、少女は何故か呆気にとられる。 「……ほんとうに、驚いていないの? 恐くないの?」 聞き返され、才人は肯定する。少し耳が尖っているから、何だというのか。様々な異形の 宇宙人を見てきた身からしたら、そんなのは誤差みたいなものだ。 少女はほっとしたような顔になった。 「エルフを恐がらない人なんて、珍しいわ」 「エルフ?」 聞いたことのある名前だった。確か、ハルケギニアの“東方”に住むという種族の名前だったはずだ。 凶暴で、それこそ怪獣と同じくらいに恐れられているということだったが……それと目の前の少女は とてもではないが結びつかない。 「そう、エルフ。わたしは“混じりもの”だけど……」 自嘲気味につぶやく少女。何やら複雑な事情を抱えているみたいだが、初対面でいきなり 根掘り葉掘り聞くのは図々しい。 そこで才人は、まず自己紹介する。 「礼が遅くなったけれど、助けてくれてありがとう。俺の名前は平賀才人。君は?」 「わたしはティファニア。呼びにくかったら、テファでかまわないわ」 お互い名乗ったところで、さっきの小怪獣が舞い戻ってきた。 「キューキュウー」 「おいおい、もっと優しく運んでくれよ。折れたりはしねえけど、振り落とされるのは気分が いいもんじゃねえからな」 小怪獣はデルフリンガーを抱えていた。 「デルフ!」 「いよぉ相棒……。やっと目が覚めたか。よかったよかった」 「ミーニン、サイトの剣を持ってきてくれたのね。ありがとう」 「キュー」 小怪獣の頭をなでるティファニアに、才人はその怪獣について尋ねる。 「そのミーニンっていう生き物は、ここで飼ってるの?」 「ええ。最近、近くの森の中でうろうろしてるのを子供たちが見つけて、連れてきてね。 見たこともない生き物だから初めはビックリしたけれど、すごく大人しいからそのまま置いてるの。 今では子供たちの良いお友達よ」 「キュッ」 ティファニアはミーニンをそう紹介した。 それからデルフリンガーとティファニアが、才人が意識を失っている間のことを説明してくれた。 限りなく死んでいた才人をデルフリンガーが能力で運び、そこを偶然ティファニアが発見。 先住魔法の力が込められた指輪の最後の一回を使い、才人の命をギリギリのところで復活させたこと。 そのことに才人は、心の底から感謝しきりだった。 しかし、何かお礼がしたいところだが……その前に、自分はとんでもない問題にぶつかっているのであった。 「デルフ、大変なんだよ! 左手のルーンが消えちまってるんだ! これってどういうことなんだ!?」 先ほど確認した通り、左手の甲には確かにあったはずのルーンが、跡形もなく消えている。 それについてデルフリンガーは、こう説明した。 「使い魔の契約が外れちまった理由……そいつはやっぱ、相棒が一度死んだからだろうさね。 使い魔は死ぬとルーンは消えるんだ」 「でも、俺は生き返ったんだぜ。ルーンも復活しないのか?」 「先住の魔法のことは、メイジの扱う魔法じゃ想定外だ。そういう機能はないんだろうね」 「自動で戻ったりはしないってことか。それじゃあ……もう一度契約したらいいんじゃないか?」 「おすすめはしないね。メイジは使い魔が死ねば、次の使い魔を召喚できるが……使い魔にとって、 “契約”は一生もんだ。生きてる状態で“契約が外れる”ってことがまずありえねえ。そんなわけで、 メイジと二回目の契約をした使い魔の存在なんか聞いたことねえし、やっちまったら、そいつの身体に 何が起こるかわからねえよ」 思った以上に難しい問題のようだ……。サイトが重い顔をしていると、二人の話を端から 聞いていたティファニアが目をパチクリさせた。 「人が、使い魔……? そんな話、聞いたこともないわ。サイト、どういうことなの?」 「あッ……」 回答に窮する才人。そのことを説明しようとすれば、話が『虚無』に行き着く恐れが大だ。 さすがにティファニアを自分たちの事情には巻き込めない。 「えっと、その……色々込み入ったことがあってさ……おいそれと教えられることじゃないんだよ。ごめんな……」 仕方なく、無難にごまかすことにした。幸い、ティファニアはそれ以上突っ込んでこなかった。 「そう……仕方ないわよね。人には秘密の一つや二つ、あるものだもの。……わたしには 聞かせられらいことがあるのなら、しばらく席を外すから、その間に話し合ってちょうだい」 それどころか気を利かせて、ミーニンを連れて退室していった。才人は彼女の後ろ姿へ、 小さくお礼を言った。 「それでなんだけど、デルフ……もう一つ、大変なことがあるんだ……」 「わかってるぜ。その左腕の腕輪……もう一人の相棒のことだろ」 力なくうなずく才人。正直、ガンダールヴのルーンが消えたことよりも衝撃の大きなことであった。 ゼロが、目を覚ます気配がないのだ。 「ゼロ、どうしちまったんだろう……。どうして俺が目覚めたのに、ゼロは眠ったままなんだ? おかしいじゃないか……」 「さすがにそこまではわからんね。ただ……」 「ただ?」 「……あの嬢ちゃんの指輪に残ってた魔力は、一人分だけだった。だから下手したら……」 デルフリンガーの言葉の先を、才人は青い顔でさえぎる。 「そんな馬鹿な! 俺とゼロは一心同体なんだ! 他ならぬゼロがそう言ったんだ! だから…… 俺だけが助かったなんてこと、あるもんか!」 「だから、もしかしたらって話だよ。単にもう一人の相棒は、まだ力が戻ってねえだけってことも 考えられらぁ。何せすげえ決着のつけ方だったからな。あんなん、誰にも真似できねえや」 「……ゼロ……」 才人はひたすらに、ゼロの身を案じる。 偉大なる勇士、ウルトラマンゼロ。思えば、自分が勇気を持って戦えたのは、ずっと彼が 側にいたからかもしれない。自分が見守られていることを実感していることで、ただの高校生だった 自分が戦場に立てたのかも……。そのゼロがいない今……ガンダールヴでもなくなった自分に、 どれだけの価値があるのだろうか。 一人で暗い気分になっていると、窓の方から聞き覚えのある声が聞こえた。 『ああ……! やっと見つけました……!』 よく聞き慣れた、爽やかな雰囲気の声音。振り返れば、窓のガラスに銀色の戦士の姿が映っている。 「ミラーナイト!」 言うまでもなく、ミラーナイトだ。彼は才人の姿を確かめ、非常に安堵している様子であった。 『よかった……本当によかった……! ずっと捜してたのですよ……! サイト、あなたが 生きてて何よりです……。本当に犠牲になってたなら、私たちはどう償えばよかったのか……』 かなり興奮しているようだったが、ミラーナイトは呼吸を整えて落ち着く。それから、才人へ呼びかけた。 『さぁ、サイト、皆の元まで帰りましょう。皆、あなたが死んでしまったのではないかと心配してるんですよ。 特にルイズがひどく落ち込んでて……。しかし、あなたが見つかった以上はそれも終わりです。 皆を安心させてあげましょう』 だが、才人はそれに応じることが出来なかった。 「ミラーナイト、ごめん……。わざわざ捜してもらったのに……今は、それは出来ないよ……」 『え? ど、どうしてです? そういえば、何やら様子がおかしいですが、もしかして何かあったのでしょうか……?』 心配して尋ねるミラーナイトに、才人は今の自分の状態を打ち明けた。そしてうつむき気味に なりながらつぶやく。 「今の俺が帰ったところで、何が出来る? 何も出来ない……。俺はもうガンダールヴでも、 ウルトラマンでもない、ただの人間に逆戻りしたんだ……。こんなんじゃ、また敵が現れた時に 誰も守れない。帰っても、ルイズをガッカリさせるだけだよ……」 『……』 ミラーナイトは何か言いかけたが、今の才人には何を言い聞かせてもどうしようもないと 判じたのか、口に出すことはなかった。 『……分かりました。サイト、あなたにはしばらく気持ちを整理する時間が必要みたいですね。 では今日は、私はこのまま引き上げます。ルイズたちにも、あなたを見つけたということは話しません』 でも、とつけ加えるミラーナイト。 『ジャンボットやグレンファイヤーには伝えますよ。あの二人も私と同じように、あなたのことを 捜し続けてますので』 「うん、分かった。無理言ってすまないな……」 『……ゼロが目覚める時、そしてあなたが本当の意味で元気になる時が早く来ることを、祈ってますよ』 その言葉を最後に、ガラスからミラーナイトの顔が消え失せた。 「……」 残された才人は、じっと無言のまま立ち尽くした。その背中からは、あまりにも大きな悲痛さが にじみ出ていた。 その翌日、才人は肉体的には完全に復調した。元々、命自体が消えかけていた状態で特に目立った 外傷はもらっていない。そのため回復が早かった。 世話にばかりなることに引け目を感じた才人は、何か出来ることをしようと手伝いを申し出た。 遠慮するティファニアを半ば強引に押し通して、今は薪割りを行っている。 「はぁ……」 しかし薪割りを行う才人は、ため息を吐いてばかりでかなりブルーだった。薪を割る手つきも、 かなりもたついている。斧を振り下ろしても、ガスッ、ガスッ、と薪に食い込んでばかりで、綺麗に割れない。 その手際の悪さも、彼が落ち込んでいる要因の一つだった。ガンダールヴのルーンがある状態で 斧を握れば、薪を割るくらいハイスピードでやってのけるはず。本当にその力を失ってしまったのだと いうことを実感してしまった。 「ほんとに、何の力もないただの人間に逆戻りしちまったんだな……」 「そうしょげるなよ、相棒。伝説じゃなくなっちまっても、相棒は相棒に変わりねえだろ? 少なくとも、俺にとっちゃそうだよ」 ため息を吐いてばかりの才人を、近くに立てかけたデルフリンガーが慰めた。すると才人が聞き返す。 「俺が、ガンダールヴじゃなくなっても、お前はいいのか? お前はガンダールヴの剣なんだろ?」 「いいさ。六千年も生きてきたんだ。俺にとっちゃあ、相棒との時間なんて一瞬みてえなもんさ」 「でも、ルイズはそうじゃねえんだよな」 「まあね。それにあの娘ッ子は現役の『虚無』の担い手だ。また何か問題が降りかかるってのは、 十分に考えられる」 「そういう時に、戦える力のない奴がいたって、邪魔なだけだよな……」 「まあ、間違っちゃあいねえな」 ヤプールは倒れた。しかしこのハルケギニアから悪の芽がなくなった訳ではない。別の魔の手が ルイズに目をつけることはあり得る話。その時に、ガンダールヴでもない自分が側にいたら むしろ足手纏いだ。それは忍びなさすぎる。 しかしルイズのところへ帰らないとしても、これからどうするべきか。時が来れば、地球には いつでも帰れるという心積もりでいたのだが、ゼロが目覚めない以上は帰る手段がない。 まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかったので、才人はすっかり途方に暮れていた。 「ゼロも一緒に目覚めてくれたら、少なくともこんな思いはしなくて済んだのに……って、 俺は本当にゼロ頼みだな、はは……」 自分一人では一歩も踏み出すことが出来ないことを自嘲しながら、次の薪を割ろうとする。 だが……切り株の上に置いたはずの薪が、綺麗さっぱりとなくなっていた。 「あれ?」 どこかに転がっていったか? と思って周りを見回すが、それらしいものはどこにもなかった。訝しむ才人。 「デルフ、確かに俺、ここに薪を置いたよな。どこに行ったか知らないか?」 「いや。見てなかった」 大層不思議がる才人だが、何かの記憶違いだと思い、気を取り直して次の薪へ手を伸ばす。 しかしその時、才人が掴もうとした薪にどこからか飛んできた光弾が当たり、一瞬にして 跡形もなく燃やし尽くした! 「!? 誰だッ!」 明確な異常事態だ。才人が振り返って叫ぶと、光弾の飛んできた方向の森の陰から、異形の シルエットが姿を現した。 『フハハハハハ! 貴様はウルトラマンゼロの変身者だなぁ~! こんなところで発見するとは 思わなかった!』 首があるべきところが三角錐になっているような、鈍色と紫色ののっぺらぼうの怪人。 ハルケギニアの生命体ではないとひと目で分かる容姿であった。 「宇宙人か!」 『如何にも! 私はレギュラン星人ヅヴォーカァ! 宇宙一の嫌われ者だぁ! ウルトラマンゼロの首は、 この私が頂く!』 レギュラン星人と名乗る宇宙人は堂々と宣言した。まさか今、宇宙人に狙われるとは思っていなかった 才人は激しく動揺するが、それを相手に悟られないようにするかのように身体の震えを抑え込んだ。 「ヤプールは倒れた! それなのに、まだハルケギニアを狙うつもりなのかよ!」 『当然だぁ! ヤプールが死に、宇宙人連合もまた分解したが、私はそんなものがなくともこの美しい星を 我が物にするつもりだった! むしろ競争相手が勝手にいなくなってラッキーというところだ!』 レギュラン星人は根っからの侵略者。ヤプールとは関係なしに、ハルケギニアを狙っているという。 しかもこんな時に限って、自分が狙われてしまうとは、と才人は己の不運を呪った。 『こんなに接近しても、ウルトラマンゼロの気配は微塵も感じられない。どうやら、お前だけが起きてて ゼロは力を取り戻していないようだな! ますます僥倖! ゼロが復活する前に、息の根を止めてくれよう! どうだぁ、私の悪賢さはぁ!』 しかも、ゼロが目覚めていないことまで知られてしまった。これでレギュラン星人は何があっても退いたりはしないだろう。 焦る才人。ミラーナイトたちを呼ぼうとしても、この距離だ。どう考えても相手の攻撃する方が早い。 カプセル怪獣も、先の戦いでの負傷があまりにも大きく、まだカプセルから出せない状態。丸裸も同然である。 いや、まだ己の肉体が残っている! 自分はともかく、せめてゼロの命は何としてでも守ろうと、 才人は自分の力で立ち向かう覚悟を固めた。 「おい、あんまり馬鹿にするなよ、レギュラン星人。ゼロの前に、この俺がいるぜ!」 精一杯の見得を切るが、レギュラン星人はむしろ大笑いした。 『グッハッハッハッハッ! ただの地球人風情が、このヅヴォーカァ様に勝てると思ってるのか? 思い上がりも甚だしいわ! グハハハハハ!』 「思い上がりかどうか……今に分からせてやるぜ!」 斧を投げ捨てた才人は、デルフリンガーへと持ち替える。しかしやはり、デルフリンガーを握っても ルーンがあった時のように身体はちっとも軽くならなかった。 「……相棒、無茶だ。今の相棒じゃ、勝ち目はねえよ。力の限り逃げる方がまだ助かる目がある」 デルフリンガーが警告する。しかし才人は引けなかった。 「ここで逃げたらテファたちが危ない。ゼロが起きてるなら……同じことを言うはずだぜ」 「相棒……」 「何。俺だって今までの戦いの間中、寝てた訳じゃないさ。宇宙最高の戦士の戦いぶりを、 すぐ側から見てきた。だから俺だって、いざとなりゃ戦えるはずだ!」 と、己に言い聞かせる才人。そう思わないことには、絶望で押し潰されてしまいそうだ。 「行くぞッ! うおおおぉぉぉぉぉぉッ!」 気合い一閃、才人が遮二無二突っ込んでいくが、 『ふんッ!』 レギュラン星人の放った光弾によって、デルフリンガーはあっさりと弾き飛ばされてしまった。 続く二発目が才人の足元に当たり、才人は衝撃で転倒してしまう。 「ぐぁッ!」 『口ほどにもない。想像したよりもはるかに弱いぞ。笑いすら起きんわ』 レギュラン星人は、嘲るを通り越して呆れ返っていた。 「く、くそぉ……」 仰向けに倒れたまま、悔しさに打ち震える才人。予想していなかった訳ではないが、本当に全く歯が立たない。 ゼロの力も、ガンダールヴの力もない自分が、本当にただの軟弱な高校生だという決定的な証拠を見せつけられた。 ガクガクと身を起こそうとする才人の腹を、レギュラン星人が踏みつける。 「がはッ!」 『あまりに張り合いのない終わり方だが、容赦はせん! 貴様はあの世でウルトラマンゼロに、 自分の弱さのせいで道連れにしたことを謝っておくんだな!』 押さえつけた才人を粉々にするだけの威力の光弾を、手の平に作り出すレギュラン星人。才人は最早逃げることも叶わない。 ああ、才人よ! そしてウルトラマンゼロよ! せっかく死の淵から生還する奇跡を手にしたというのに、 こんなにも早く死の世界へと押し戻されてしまうのか! だが、才人が助かる道はもうどこにも見当たらない! 才人の最期の瞬間が、もうすぐそこに迫ってきた! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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学院の教室。一施設の設備としては広大な部類に入る。 そのまま教室に入ると一斉に視線を浴びる2人。 不思議に思い考え込む霧亥。周りをにらみ返すルイズ。 しばらくすると霧亥の興味は、見たことの無い生物に向けられる事になった。 中年の女性が教室に入ってくる。挨拶もそこそこに、彼女は使い魔について思うことを幾つか口にした。 その段になってまたルイズとクラスメートの諍いが起こる。近くの男によれば定番のやりとりらしい。 騒ぎが静まれば、今度はシュヴルーズ(中年の女性の名前だ)が魔法について講義を始めた。 霧亥にとってそれは幻想的な光景だった。もちろん余りに現実離れした、という意味で。 なにせこれだけの人間が一堂に会して、それなりに真面目に『魔法』なんてものについて語る。 ネットスフィアが混沌に沈む前までは残っていた、ありふれていた、現実だった筈の光景。 懐かしい、と思う自分がいることに気づいたのは、ルイズが壇上に立って現実を再認識した時だった。 「ミス・ヴァリエール。練金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 「はい先生。私、やります」 力場が不確定要素により変化して不純物の塊を置換。次に、別のエネルギーが空間と対象の物体に干渉する。 それを認識してから0.5秒後に霧亥は空を飛んでいた。つまりルイズが魔法を行使して、石を机ごと吹き飛ばしたのだ。 「先生が倒れているぞ!」 「だからゼロのルイズに魔法を使わせるなって!」 「メチャクチャだ…誰か手を貸してくれ!」 さながらセーフガードに襲撃された集落を眺めているかのようであった。 その辺の地面に転がっている石を持ち上げれば、似たような状況を昆虫に見ることが出来るかもしれない。 つまり、パニックだ。 霧亥は『魔法』の存在を疑うことはしなかった。要するに理解できない未知の技術だろう、と納得していた。 しかしそんな中でルイズには心理的動揺が見られないこと、本人のダメージが少ない事に対しては驚かされていた。 いくつか理屈をもっともらしい分析で飾り付ければ、確かに彼女の状況を説明することは出来るだろう。 だけどそんなことを誰もしなかった。当の彼女自身でさえ、そんな理屈は必要としていなかった。 彼女の魔法は常に失敗するのだ、と誰かがぼやく。彼女もそれを認め、少し失敗したわ、と呟いた。 別室で老人が美女に蹴り飛ばされている頃、霧亥とルイズは2人で黙々と瓦礫の片付けを続けていた。 幸いにも生命活動を停止した生物はいなかった。ただ、ほんの少しの失敗で盛大に部屋が壊れただけである。 「私、魔法が成功しないのよ。だからゼロって呼ばれてるの」 「そうか」 それ以上、霧亥は何も言わず、ただ黙々と作業は続く。 霧亥は超構造体に無数に存在した建設者のことを思い出していた。 あとは作業が終了するまでの時間を概算し、タスクを解決するだけ。 ルイズも手伝ってくれているので、少しは早く終わるだろうか。 「ねえ、霧亥の世界に魔法は無かったの?」 「お前たちのような技術は無い」 「じゃあどうやって暮らしているの?」 「場所によって違う」 「…そう」 無事な机は元の位置に戻され、戻しようの無いほど壊れた机は適当に部屋の隅へ放り投げられる。 割れたガラス片はずた袋の中に纏められ、新しい窓を運び込む。煤で汚れた卓上を拭いて、元の位置に戻す。 所要時間89分。タスク完了。 「私、やっぱりダメなのかしら。満足に『錬金』もできないなんて」 ガゴン、と最後の机が元に戻る音がした。霧亥は手を止めて、こう答える。 「魔法そのものが使えないわけじゃない」 「私だって努力したわ!だけど何をやっても魔法使いらしいことは何一つできないのよ!」 「俺を転送したのは魔法じゃないのか」 「信じられないかもしれないけど、あんたが最初の成功だったのよ?次はコントラクト・サーヴァント。やった、と思った…」 そこまで言ったルイズの瞳から涙が流れていた。 「変わったと思ったのに!やっと魔法が使えるようになったと思ったのに!結果はこれ?どうしてなのよ!」 煤だらけのボロ布が空しく地面に叩きつけられた。 霧亥はそれを拾い上げ、ルイズを真っ直ぐに見つめて言う。 「お前は一瞬だが魔法に成功していた」 「……失敗してたのはわかってる、わ。嘘なんて、つかないで。そう、わかってるの…もういい…」 「練金の直後、別のエネルギーが流れ込んでいた」 「だって……詠唱は完璧、だったのよ……」 嗚咽が言葉を途切れ途切れにするのを聞きながら、霧亥は自分の理解できる事象に置き換えて説明を試みる。 「聞け。さっき見た限り『練金』というのを、机の交換を行うようなものと考えろ」 廃棄された机を掴み新しい机の前に立つ。ルイズは話を聞くつもりらしく黙った。 「これを交換するのが『錬金』だ。だが、さっきのお前の『錬金』は…」 机の間に立ち、両方を突き飛ばした。 「今の俺みたいに別の何かが邪魔をしている。だから吹き飛んだんだ」 机を元の位置に戻した霧亥を、ルイズは呆けたような表情で見つめていた。 そして彼女の内臓が空腹を主張したことで正気に戻った。ほんのりと頬に朱がさしている。 「……い、行くわよ」 「わかった」 不安定なドライバで動くハードウェアのような彼女に頷くと、霧亥も食堂に向かって歩き出した。 ほんの1歩だけ彼女が距離を縮めた事には特に気づかずに…。
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-‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 / \ 「よくぞわしをたおした。だが愛国心あるかぎり国もまたある。 |l l /〃 ヽ ヽ} | 、. ヽ わしにはみえるのだ そのときにはおまえは年老いて \. ljハ トkハ 从斗j │ ', パサパサのレモンケーキはたべられまい。 \ l∧}● V ● ! |、 ハ わはははは・・・。ぐふっ!」. \ ハ.ノ⊃ 、_,、_, ⊂⊃ .|ノ ヽ \ /⌒ヽ_.リ人 ゝ._) ./". /⌒i ヽ ヽ \ //" >,、 __ イ{. ヘ /! } }. / \ ( Y Y .!| `´/ヘ { { ヽ/ノ ) ∨ ノ. ヾ..ノ. \\丶、 中央党派閥【ルイズ】
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前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神 「……はははっ、こりゃまた傑作だ。人形の使い魔に、これまた人形が召喚されるとはね」 と、プティ・トロワに高笑いを響かせるのは、ガリア王女イザベラ、タバサの従妹である。 「まさかアルビオンから生きて帰ってくるとは思わなかったけど、そういうわけかい。 使い魔、あんたの実力は、これと同じガーゴイルで観察させてもらったよ」 イザベラは、蛾を象った魔法人形を弄んでいる。 「それで、ウェールズは生きてるんだろうね? 報告しな」 「――ウェールズ王太子はトリステインに亡命。既に王宮に到着しているはず」 「そうかい。――父上も何を考えて、亡びる国に無駄な手出しをしたのかわからないけど、まあいい。 今日のあたしは機嫌がいいんだ。下がりな。次の任務があるまで、学校でお勉強でもしてるんだね」 嫌がらせの一つもなしに開放されたことを怪訝に思いつつ、タバサは王宮を後にする。 しかし、すぐにある一線に思い至った。長門有希の行為は、ガリアから監視されていた、ということは――。 「ユキ、時間がない」 「どうしたの」 「母様が危ない。あなたの力は、全て観察されていた。ジョゼフは、あなたが母様を治せることを知っている」 + + + いっぽう、王の暮らすグラン・トロワでは、ガリア王ジョゼフとその使い魔、 そしてフードを被った男――エルフである――が、リュティスの町中を馬で駆け抜けるタバサの狼狽振りを、遠見の鏡で眺めていた。 「――ほう、気付いたか。もう少し泳がせておくつもりだったが、有能過ぎる使い魔を持ったことが運のつきだったな、シャルロット。 しかしミューズ、おまえは構わぬのか。あの使い魔をリュティスに引き止めることもできたのだぞ。知人なのだろう?」 「だから、そのミューズって、石鹸みたいな呼び方やめなさいよ」 ジョゼフが女神の名で呼ぶ使い魔、ミョズニトニルンは不機嫌そうに答える。 ガリア王とエルフの青年、長身の二人に挟まれ、子供のようにも見える彼女は、 長門有希と同じ制服に身を包み、頭には黄色いリボンを結んでいる。 「そうね……。有希は仲間だった。けど、裏切ったの、あたしを。信じてたのに――。 それに、魔法使いだってことを隠してたなんて。 ……そうね、本当はどうすればいいのか、あたしは分かってないのかも――」 「ふふ、構わん。裏切り……か。おれも、ミューズのように悲しむことができるようになりたいものだよ」 「お話のところすまないが――」 「おお、ビダーシャル。うむ、行ってくれ。頼むぞ」 顔も向けず言い放つジョゼフに対し、エルフの男は表情一つ変えずに従う。 彼が何かを呟いたかと思うと、つむじ風が舞い、エルフの姿をかき消した。 「なに? 今の。これも魔法?」 「先住魔法、らしいな」 「へぇっ。いろんな魔法使いがいるのね、この夢の中には」 「メイジではなくエルフではあるが。――夢、か。そうかもしれん、この世界は」 「……でも、魔法使いがいても宇宙人にも、未来人にも会えないのよね。 魔法使いだって超能力者と似たようなものだけど、いざ会ってみると――」 ミョズニトニルンの少女は椅子に背を預け、小さく呟いた。 + + + トリステインとの国境に位置する領地まで、最短距離の街道でも馬で四日。 その道のりを、タバサと長門は三日で走破した。 二人は、オルレアン公の屋敷へと続く最後の坂道を、満身創痍の状態で駆け上がる。 「だいじょうぶ、ユキ?」 「わたしの肉体には有機生命体の疲労の概念がない。それより、あなた。この一週間、無理のし通しで、もう限界」 「……もうすぐ、屋敷に着く」 視界が開け、国境のラドグリアン湖を望む丘の上、白亜の城へと馬が横付けされた。しかし、 「遅かった……」 木の無垢の扉は斧で破られ、当然の事ながら執事の出迎えはない。 そして中へ入ると、略奪とまではいかなくとも、壁にかけられた絵や家具、調度品の全てが持ち去られ、 がらんとした室内にはただ、開け放たれた窓から風だけが吹き込んでいた。 「母様!」 わずかな希望を込めて、タバサは母の寝室の戸を開け放つ。 だが彼女の予感した通り、湖を望む大きな窓の前に、母の姿はない。その場にへたり込むタバサ。 しかし長門は、そんな主人の様子ではなく、部屋の隅を見やっていた。 「誰?」 すると、光にかき消されていた男が、二人の眼前に姿を現す。長い耳が、彼がエルフであることを表していた。 「精霊がわが身を隠していたはずだが……。同胞か?」 「ちがう」 長門は平坦に問う。 「あなたの周りには情報操作の跡がある。なぜ?」 「情報――?」 しかし、男は答えることを止める。タバサが男に飛び掛ったのだ。 「お母様を!」 タバサの杖に光が集まり、氷の矢を作り出す。 それは、トライアングルのタバサには本来不可能なほど巨大な――。タバサの心の震えが、彼女をスクエアに覚醒させていた。 しかし、 「タバサ――! だめ――」 「地の精霊よ――」 長門が叫ぶのが早いか、男の目の前に土が集まると、そこに透明な壁を作り出した。タバサのウィンディ・アイシクルはあえなく砕け散る。 「土を珪素に変えた?」 長門は相手の情報操作能力に舌を打つ。 そして壁は土に戻るとタバサの四肢に絡みつく。土は杖を飲み込み、彼女の体を振り回すと、屋敷の壁へと放り投げた。 「……命までは取らぬ。しかし、これも契約のこと、われに同行願おう――。 む――、なおも抵抗するか。……争いは好まぬ、わが同胞に近きものよ」 男、ビダーシャルは、長門有希へと向き直った。 長門は半身に構え、杖をビダーシャルへと指し向けている。 「……争いを望むか。愚かな」 長門は高速言語を詠唱する。しかし――、 「情報の操作が――、接続が切断されている?」 長門有希の試みたいかなる情報操作も、その対象にたどり着く前に、手応えもなくかき消される。 まるで、座ろうとした瞬間、椅子を後ろに引かれるがごとく。彼女でさえも驚愕の表情をわずかに浮かべざるを得ない。 「これは……。精霊を侵食しようとする者など! この悪魔め!」 ビダーシャルもまた、長門有希の行動に困惑していた。精霊との契約によって物の理を改変するのではなく、 精霊の領域を力で支配する。エルフにとって長門有希は侵略者、まさに悪魔として捉えられたのである。 宇宙人とエルフの間で、目に見えない情報、そして精霊の引き込み合いが続く。 しかし突如としてビダーシャルが動いた。 ビダーシャルは床を蹴ると、長門有希との物理的距離を詰める。それに呼応し、長門は空中に舞う。 すると二人の間に、銀の刃が飛んだ。 情報操作のせめぎ合いに全能力を傾けている長門には、物理攻撃を放つ余裕も、 そして、そうするための物理的媒体もない。刃――エルフが砂漠の生活に用いるナイフは、 長門有希の心臓を、正確に刺し貫いた。それと同時に、ナイフを伝い、長門有希を構成する肉体へと、精霊の情報が流れ込む。 長門もまた、床へと倒れ臥した。もはや彼女には、流れ込む情報、精霊の力を無理に押さえ込むことしかできない。 ビダーシャルは長門有希に近寄り、ナイフを引き抜こうとする。 「わが生活の道具を、このようにして血に染めるとは――」 だが、ナイフを掴むという行動は、ビダーシャルにとって安易なものでありすぎた。 彼がナイフを掴んだ瞬間、長門とビダーシャルの間に、物理的接触を介した情報連結が行われる。 その兆候を覚えた瞬間、すでに長門有希の情報操作は、ビダーシャルの周りの精霊を手中に収めていた。 ビダーシャルはナイフを抜くと、身を翻し、逃げ出すようにして窓を破って屋敷から飛び出した。 「この屋敷の周囲の精霊を取り込んだ――か。悪魔め――。精霊を支配下に置かれては、近付くこともできぬ」 ビダーシャルは、湖を囲む森へと消える。 だが長門有希もまた、ビダーシャルのいう精霊によって、自身の情報を侵食されていた。 ナイフによる肉体の物理的損傷こそ塞がれてはいるが、 細菌のように長門有希の体へ侵入しようとする精霊、情報操作とのせめぎ合いに、彼女は身を起こすことができない。 ――先に立ち上がったのはタバサであった。 全身を強く打ち、気を失ってはいたものの、朦朧とした意識の中で使い魔を抱き起こす。 一言も発さず、フライによって屋敷を出ると、屋敷の前に残されていた馬のうち一頭に跨り、全速力で屋敷を離れた。 ほとんど眠ったような状態のまま、裏街道を昼夜の別なく進む。国境の関所を回避するなど、 北花壇騎士のタバサにとっては、眠っていてもこなせるほどに造作もないことである。 トリステインへ入ったのが、屋敷を出た日の夕刻、そしてトリステイン魔法学院へたどり着いたのは、翌々日の正午であった。 魔法学院の厩舎へ馬を預けると、二人はその藁の上に、並んで倒れ臥した。 + + + タバサが目を覚ますと、そこは魔法学院の救護室であった。そして傍らには、長門有希が本も読まずに座っている。 「ユキ……、あなたは?」 「あなたの領地から離れることで、情報操作――あの男のいう精霊による侵食から逃れられた。 あの男の情報操作は座標に依存しているよう。……礼を言う。あなたがわたしを助けた」 「いい。巻き込んだのはわたし」 「……ありがとう」 すると、二人の声に気が付いたように、ドアが勢いよく開け放たれる。 「タバサ! 気が付いたの?」 部屋に飛び込んできたのはもちろんキュルケである。そして才人、ギーシュもいる。 「よかった……。あなた、三日三晩眠り続けてたのよ。 打ち身だけで命に別状はないって言われてたけど、それでももうダメなんじゃないかって――」 キュルケは、上半身だけ起こしたタバサを抱き締めた。 「本当に、なんともなくてよかったよ。タバサだって、ルイズの友達だもんな」 才人も頬を緩める。 「友達?」 タバサが問う。 「ああ。俺たちを追いかけて、あんな危ない場所にまで来るなんて、友達じゃなかったらなんだっていうんだ。 それに、ルイズもタバサもキュルケの友達なら、ルイズとタバサは友達だよ」 才人は寂しげに言う。 「あら、誰がルイズの友達だったかしら?」 キュルケもまた、寂しく笑った。 タバサは友を騙した罪の重さを心に刻む。しかし、キュルケの胸から面を上げると、 友に託した、いや、押し付けたと言っていい、任務のその後を問いかけた。 「――ところで、ウェールズ王太子は?」 「ああ、そのことだが、まずいことになったよ」 とギーシュ。 「やっぱり――」 と呟いたタバサの声は、長門以外には聞こえない。ギーシュは言葉を続ける。 「姫様にはこれ以上なく感激していただけたけれども、その後に父――軍の元帥なんだが――に呼び出されて、 こっぴどくなんてものじゃない、怒られたよ。なんてことをしてくれたんだ、ってね。 確かにその通り、アルビオンの新政府はすぐにでも、トリステインに侵攻してくるだろうって、もっぱらの噂さ。 ああ――、僕は姫に殉じようとするあまり、亡国への道に加担してしまったのか……」 「ギーシュはそう言うけどさ、俺とタバサ、それに長門さんのやったことは正しいと思うよ。 ルイズだってそうしたはずだ。そうさ、ルイズだって――」 ルイズのことを思う余り、才人はそれ以上言葉を紡ぐことができない。そしてタバサもまた――。 + + + その日の午後、長門有希は、自室に移り身を休めるタバサを残し、一人広場で本を広げていた。 しかし、ページは殆ど繰られることがない。そんな彼女に、近付く者がいた。 「や、やあ。長門さん」 「平賀才人?」 「ああ。ちょっと、話があるんだけど、いいかな」 「……ここでいい?」 「――うーん、聞かれると、まずいかなあ、やっぱり」 「ならば場所を移すべき。わたしの部屋はタバサが眠っている。あなたの部屋は?」 「俺の部屋? 使用人の部屋だし、狭くてもいいなら。 だけどもしルイズが、自分以外の女の子を部屋に連れ込んだって知ったら……」 「ルイズは連れ込んだの?」 「へっ? い、いやなんでもない。口が滑った」 才人はにやっと口を開ける。 「作り笑い」 「……ああ。やっぱり、笑えなんかしないさ、こんなときに」 うつむく才人と、普段にも増して無口な長門。二人は塔へと並んで向かった。 + + + しかし塔の入り口で、二人は唐突に呼び止められる。 「サイトさん!」 振り返るとそこには、草木で染められたロングスカートに身を包んだ黒髪にそばかすの娘が、トランクを抱えて立っている。 「や、やあシエスタ。久しぶり」 「あれ、そちらの方は――。今日はミス・ヴァリエールとご一緒じゃないんですか?」 「……ああ。いろいろあってな。ルイズはいま学院にいないんだ……」 「そうなんですか。浮気はいけませんよ、サイトさん」 「そ、そんなんじゃないって。ところでどうしたんだい、いきなり呼び止めて」 「ええ――。それがわたし、休暇を貰って、今から田舎に帰るんです」 「そりゃまたどうして」 「アルビオンが攻めてくるって噂ですよね。だから、田舎のほうが安全だろうって、コックのマルトーさんが――」 「この学院だって、これで結構安全だとは思うけどなあ。そりゃ、泥棒に入られたりはしたけれど」 「うーん、でも、大丈夫ですよ。ただの田舎ですもの、盗るものなんてなんにもないですから。 そうだ、今度遊びに来ませんか? 馬でしたら半日もかかりませんから。タルブっていう、ワインがおいしい村なんですよ」 「……ああ。考えとくよ」 「つれないですねー。もう、おこっちゃいますよ! ぷんぷん!」 才人が苦笑いを浮かべるのを見つつ、シエスタは笑顔で去っていった。 彼女が荷馬車に乗り込むのを確認するまで、才人は視線を外さない。 「……じゃ、行こうか」 「あれは、誰?」 「ん……、メイドのシエスタ。友達だよ」 「あなたは――、浮気者?」 「ち、違うって」 「浮気はやめたほうがいい。不幸」 不幸、という言葉に、長門はいつになく語調を強める。 「わかってるさ。今の俺は、ルイズを助けることしか考えちゃいないよ。――もしかして長門さん、浮気されたことある?」 「何を言っているの?」 その言葉に、長門有希の目の色が変わった。長門は才人に向けて杖を構える。 「じ、冗談だって。ほ、ほら、早く行こうぜ。シエスタならまだいいけど、二人でいるところをギーシュに捕まったら、なんて言われるか」 長門を後ろから押すようにして、二人は女子寮塔の階段を上る。 + + + 寮塔の一角、ルイズやキュルケ、タバサの部屋と同じフロア、日の当たらない側に位置するのが才人の部屋である。 本来ならばメイドが雑務を行うために設けられたものではあったが、ベッドと机が運び込まれ、一応の体裁は整えられていた。 「……それで、話なんだが」 椅子には長門が腰掛け、才人はベッドに座り話を切り出す。 「アルビオンが攻めてきたら、俺は戦場に行こうと思う」 「なぜ?」 「ルイズほどのメイジだ。わざわざ誘拐するなら、何かの目的があるはずだろ? なら、戦争に連れて来るんじゃないかって」 「それで、どうするの?」 「助け出す。それ以外にないさ。それで、お願いがあるんだ。 ……頼む! 同郷のよしみだ。どうか俺がルイズを助け出すのを、手伝ってくれないか!」 才人はベッドから降りると、長門有希へ土下座した。 「あなたの言ったことは、無計画で無謀」 「分かってる。だけど、ルイズが来るとしたら、そこしかないじゃないか」 「――ただ、わたしたちも、戦場へ向かうつもりでいた」 「……へ? なんで?」 「あなたと同じ。彼女を発見できるとすれば、確立が一番高いのはそこ」 「でも、わたし"たち"って言ったよな。長門さんだけじゃなくて、タバサも行くってことか?」 「わたしたちがアルビオンに向かうとき、キュルケに頼まれた。ルイズをよろしく、と。 なのに、わたしたちも彼女を守ることができなかった。だから」 「……そうか。わかった。頼むよ、長門さん。それに、タバサにもよろしく」 「ええ」 + + + 「……それで、どうする? もう少しゆっくりしていくか?」 一通りの話を終えると、才人は椅子に身を預ける。 「帰る。そろそろタバサも起きているはず」 「そうか。じゃあ、頑張ろうな。絶対にルイズを助け出すんだ」 長門は深く頷いた。そして、扉に手をかけようとしたのであるが、 ふと足元を見ると、埃を被ったノートパソコンが壁に立てかけられていることに気が付いた。 「これは?」 「ああ、俺のパソコン。電池切れで動かないけどな」 「……見せてもらって、いい?」 「え? いいけど――」 長門有希はテーブルにノートパソコンを開くと、杖を向け、高速言語を詠唱した。 そして、電源ボタンを押す。すると、電源が投入されたことを表すLEDが点灯する。 「あれ、……動いて、る? どうして」 「バッテリーを錬金した」 もちろん実際には、魔法ではなく情報操作であることは言うまでもない。 「そうか、流石だな……」 「触っても、いい?」 「ああ、いいけど、あんまりフォルダの中は見ないでくれ」 「了解した」 長門有希は黒い画面を立ち上げると、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩く。 次々とウィンドウが出ては消え、描画の追いつかない画面が点滅した。 「あのー、長門さん? 何をされているので?」 「このコンピューターを通じて、ハルケギニアに張り巡らされた情報網へのアクセスを試みている」 「そ、そうか」 才人には、彼女がなにをしているのか、全く理解できない。 なにせ、パソコンにはケーブル一つ繋がってはいないのだから、 何らかのネットワークに接続していること自体、あり得ないことなのである。 しかし、長門有希が力強くエンターキーを押し、画面の表示を見つつ発した言葉には、才人も思わず目をみはった。 「わかった」 「なにが?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、今、アルビオン空中大陸とトリステイン王国の間の海上に存在する」 「海の上? ――ってことは!」 「そう。船の中。彼女は、トリステインに侵攻するアルビオン軍に同行している」 「そうか! 待ってろよ、ルイズ! すぐに助けてやるからな!」 気持ちを高ぶらせる才人を尻目に、長門はノートパソコンを閉じ、タバサの部屋へと戻っていった。 今まさにアルビオン軍がトリステインに向かっているという事実に才人が思い至るのは、長門が部屋を出た後であった。 「おきてる?」 長門はタバサに問う。 「おかえり」 「――アルビオン軍がトリステインに向かっている。ルイズを、助けに行く?」 タバサは首を縦に振る。 「わたしたちにも、責任の一端がある」 「了解した」 「……わたしは母を助けられなかった。ならばせめて、友人を――」 タバサは母を思い、そして、友を思った。 それは彼女にとって初めての、自身の宿命から離れた、生きるための目的である。 前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 部屋に差し込む朝日を受けて、エリーはゆっくりと意識を覚醒させる。 今日は、コンテストの発表があったっけ。 飛翔亭には新しい依頼が入っているだろうか。 近くの森に行こうかな? そうだ、ミルカッセさんを誘おうか。 半分寝ぼけた頭で考えながら身を起こそうとすると、いきなり胸に何かを押しつけられた。 ――ええ? なに!? ぼよんとした柔らかい感触。それに、何かいいにおいがする。 エリーはベッドの中、褐色の肌をした美女に抱きしめられていた。 その胸に顔がうずまっている。 「わひゃあああ!!?」 思わず悲鳴を上げて、エリーはベッドから転がり落ちた。 腰を打つ。かなり痛い。ついでに、ショックのせいか腰も抜けてしまったようだ。 「何よ、朝っぱら……」 美女は身を起こしながら、ふわあ、とあくびをする。 「エリー、そんなところ何してるの?」 「いえ、あはははは……」 美女、いや、キュルケに声をかけられて、エリーは自分の状況を思い出した。 遠い異国にやってきてしまったという事実を。 身支度をして部屋を出ると、となりの部屋から、桃色の髪をした女の子が出てきた。 いろんな意味でキュルケとは対照的な少女だ。 特に胸とか。 エリーとて体つきは華奢であり、お世辞にも色っぽいとは言えないが、ルイズに比べればまだ女らしい体つきと言えた。 後ろには黒髪をした少年がいる。 二人とも何かぶすっとした表情をしていた。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 キュルケが挨拶をすると、ルイズと呼ばれた少女はぶすっとした顔のまま、挨拶をする。 男の子は、キュルケに、というよりキュルケの胸に見蕩れているようだった。 無理もないが、傍目から見てかっこいいものではない。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケは少年を見て、ニヤリと挑発するように笑う。 「ふん! 悪かったわね! でも、あんたの使い魔だって人間じゃないの!」 ルイズはエリーを睨んで、ふんとそっぽを向いた。 「そりゃあね? でも、これはこれでいいんじゃないかしら。火竜山脈のサラマンダーとか召喚できれば、それはそれで素敵だけど……こんな可愛い女の子を召喚できたっていうのも素敵だと思わない?」 そう言って、キュルケはぐいとエリーを抱き寄せた。 「あ、あんた、男好きかと思ってたけど…………そういう趣味だったの!?」 キュルケの発言にルイズは後ずさり、黒髪の少年も仰天した様子だ。 エリーも目を白黒させて、 「あの、気持ちは嬉しいけど、私、そういう趣味はちょっと……」 「あははは。あたしだってないわよ。それはそうと、せっかく同じ人間を召喚しちゃったんだから、使い魔同士で親交を深める……ってのはどう?」 キュルケは笑って、軽くエリーの肩を押した。 エリーは少しとまどいながらも、黒髪の少年を見る。 黒い髪をした人間というのは何人か知っているが、その顔立ちはエリーの知るどの人種とも似てはいなかった。 強いて言うなら、王室騎士隊隊長であり、剣聖といわれた男、エンデルクが近いかもしれない。 だが、目の前の男の子は、何と言うかいかにも普通の少年で、英雄と謳われたエンデルクとはまるで違う。 しかし、その普通さがかえってエリーの緊張をほどいた。 「私、エルフィール・トラウム。エリーでいいよ」 ゆっくりと微笑み、握手のために手を差し出す。 「あ、俺は平賀才人」 少年も手を差し出し、二人は握手を交わした。 その途端に、ルイズは目を怒らせて、強引に二人の手を引き剥がした。 「ちょっと! ツェルプストーの使い魔なんかと握手するんじゃないの!!」 「何すんだよ!?」 ヒラガ・サイトなる少年は抗議するが、ルイズはそれを聞こうともしない。 「家名も一緒に名乗ってたけど……その子、貴族なの?」 「違うわ。エリーの生まれたシグザールでは、平民にも家名があるのよ」 「――何よ、そっちも平民じゃない。それにシグザール? どこの田舎だか知らないけど、聞いたこともないわね」 ルイズはちょっと安心したような顔で、ふふんと笑った。 「そんな田舎者の小娘、何か役に立つってのいうの? せいぜいメイドの代わりさせるくらいじゃない!」 ――こ、小娘って……。 ルイズの言い草に、エリーは嫌な汗をかく。 確かに小娘には違いない。しかし、目の前の自分と同年齢、下手すれば下かもしれない相手には言われたくない。 エリーは気を落ちつけながら、サイトに話しかける。 「ええと……。私、シグザールって国からきたんだけど。君は?」 「俺は、日本の東京から……」 「ニッポンノトウキョウ?」 「やっぱり、知らないよな……」 「うん、ごめん」 「いや、ここじゃ知ってるほうがおかしいんだろ。何てたって、ファンタジーだもん」 自嘲的な笑いをあげる才人に、エリーは首をかしげるばかりだった。 「このバカ犬! ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くするなって言ってるでしょう!? ああ~~!! 朝から気分悪い!!!」 「いで、いでえ!! 何すんだ、離せよ!? ちぎれ、耳がちぎれる!!」 ルイズはキッとエリーと才人を睨みつけ、その耳を引っ張って歩き出した。 そして、もう一度キュルケを振り返って、ふん!とそっぽをむくと、才人の耳を引っ張ったままいってしまった。 「……なんか、すごい人だなあ(いろんな意味で)」 エリーはまるで嵐でも見送るような目で、ぼそりとつぶやいていた。 「だから楽しいんだけどねえ」 びっくりしているエリーとは対照的に、キュルケは本当に楽しそうに、ころころと笑う。 その様子は、何だか、ちっちゃな子供を、妹をからかっている喜んでいる姉のようだった。 ――本当は、仲良いのかな? 「あの桃色へアーはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は、ゼロのルイズよ」 ここハルケギニア大陸のメイジたちが、あだ名のような“二つ名”を持つことは昨夜聞かされている。 キュルケは火の属性、そして恋多きその気質からのものなのだろう。 「ええと、お友達ですよね?」 「? あたしとルイズが? ……あっはっはっはは! そうね、そんなようなものかしら。いえ、そうね。確かに友達よ。心の友とも書いて心友ってとこね」 エリーが問うと、キュルケは何かつぼをつかれたように大笑いを始める。 そんなようなもの? 何か曖昧な表現だった。 どうも言葉通りの関係というわけでもないらしい。 ――ライバルって、ところかな? エリーは、自分の師であるイングリドと、友人、いや親友とも言えるアイゼルの師ヘルミーナのことを思い出した。 自分とアイゼルもライバルといえば、ライバルだ。 しかし、それを言うならノルディスも、他の生徒たちもみんなライバルである。 イングリドとヘルミーナの場合は、もっと激しく、凄まじい関係だ。 それこそ、宿敵同士とも言えるような関係ではないだろうか。 さらに言うなら、両者の立場は互角の関係、互角の実力だった。 でも、キュルケとルイズの関係は、今見た感じでは、どうにもキュルケのほうが一枚も二枚も上をいっているように見えた。 多分、精神的な余裕はもちろん、魔法の実力においてもそうなのだろう。 「さてと、それじゃ朝のお食事にいきましょうか。ついてきて」 キュルケは見る者を魅了するような優雅な動作で振り返り、エリーに言った。 「あの、本当にここで?」 アルヴィーズの食堂を見まわしながら、エリーはどぎまぎとした顔で言った。 その様子を見て、キュルケは苦笑する。 いかにも田舎からやってきました、と言わんばかりの態度である。 エリーとて、シグザールの王都であるザールブルグで一年暮らしているが、それでもこんな豪奢な場所など縁がなかった。 アカデミーの他の生徒たちと違い、参考書や調合器具、それに生活費は自分で工面しなければならないエリーにとって、豪華な場所で豪華な食事など夢にさえ出てこない代物だった。 もっとも、アカデミーの生徒がほとんどが中流家庭の子供なので、大抵エリーと同じくこんな場所に縁はなかったが。 「あの、私やっぱり違うところで……。場違いだし……」 すっかり萎縮してしまったエリーはすがるような目でキュルケに言った。 しかし、キュルケはチッチッチッと指を振った。 「誰にだって、初めてはあるわ。こういう場所で色々見聞きするのも、勉強ってやつじゃないかしら? 将来役に立つかもしれないでしょ?」 「でも、私は貴族じゃないし……」 「あら? もしかしたら、なるかもしれないじゃない」 少しうつむくエリーに、キュルケはにこりとしてその肩を叩く。 「あなたの国では、平民でもお金を持ってれば、貴族になれるんでしょう?」 「そうですけど……」 確かに、シグザールでは財を成して貴族の身分を得た人間はそれなりにいる。 アカデミーの卒業生でも、錬金術を用いて財産を築き、貴族となった者もいると聞いていた。 ただし、アカデミーではそういった姿勢をあまりよく思ってはいないようだ。 錬金術の根本は真理の探究にあり、宝石や薬を生み出すのはあくまでもその過程にしかすぎないのだから。 といっても、そういった卒業生による援助もかなりのものであるらしく、あまり表立って否定はできないらしい。 「でも、別に私は貴族になる気は……」 「はいはい、いいからいいから」 キュルケはちょっと強引にエリーを席につかせた。 ――まいったなあ……。 エリーはため息をついた。 周囲からチラチラと視線を感じる。 エリー自身はそれほど目立つような少女ではないが、その服装は別だった。 アカデミーにおいては特に変わっているわけでもないオレンジの服だが、この魔法学院においてはものすごく目立つ。 あれは誰だ? どこのメイジだ? 何でキュルケと一緒にいるんだ? そんな声がかすかに聞こえてくる。 エリーがそんな居心地の悪さを覚えている時だった。 「おはよう、タバサ」 キュルケの明るい声に顔を上げると、眼鏡をかけた小柄な少女がそばに立っていた。 ――あ、この子は……。 確か昨日青いドラゴンを召喚していた少女だ。 青い髪と、召喚した使い魔のインパクトのおかげかよく覚えている。 「おはよう」 タバサは一見無愛想とさえ感じる返事をキュルケに返すと、じっとエリーを見つめてきた。 「あ、あの……?」 「この子はタバサ。あたしの友達よ」 タバサの視線にひるむエリーに、キュルケはくすっと笑って紹介をする。 「あ、はじめまして……。私はエルフィール・トラウムです」 何だか、不思議な感じの子だな。そう思いながら、エリーは自己紹介をした。 「タバサ。よろしく」 タバサは実に簡潔な自己紹介をした後、ずいとエリーに近づいた。 「あ、あの……?」 「あなた、昨日本をたくさん持っていた」 「う、うん……」 本。召喚する時に一緒に持ってきてしまった参考書のことだろう。 「良かったら、読ませてほしい」 「え、いいけど……」 「でもタバサ、あの本あたしたちは読めないわよ? 遠い遠い外国の言葉で書かれてるもの」 キュルケがそう言うと、タバサは少しの間黙りこんだ。 やがて、ごそごそと一冊の本を取り出して、エリーに手渡す。 「読んでみて」 エリーは言われるままに本を開いてみたが、まるで読めなかった。文字の構造や形は似通ったものがないではなかったが、基本としてシグザールのそれとは異なる文字である。 「……読めない」 「言葉はわかるのに、文字が読めないっても変よねえ……。言葉がわかるのは多分サモン・サーヴァントの影響なんだろうけど。どうせなら文字も読めるようになってればよかったのにね」 そう言って、キュルケは肩をすくめた。 「じゃあ、教え合う」 タバサが言った。 「ええ?」 「あなたはあの本の、あなたの国の言葉をわたしに教える。わたしはハルケギニアの言葉をあなたに教える」 「うん、いいよ。でも……あの本、錬金術の参考書だから、あまり面白くないかも」 「この世に面白くない本などない」 「そ、そうかな……」 きっぱりと言い切るタバサに、エリーは苦笑するしかなかった。 そして改めてテーブルに並べられた料理を見て、笑みは引きつったものになる。 ――こんなに食べられないよ……。でも、残したらもったないし……。 エリーは決して小食ではない。むしろ健啖家といえるほうだ。 ただし、それはあくまでも一般人レベル、ハルケギニア風に言えば平民レベルの食事での話。 鳥のローストや魚の形のパイといった無駄に豪華は食事は、見ているだけでも胃がびっくりしそうだった。 だからキュルケやタバサが食事を始めてからも、すぐに料理に手をつけられなかった。 ――どうしよう……。……んん? あれは……。 途方に暮れていると、少しばかり離れた、ある場所へ目がとまった。 そこではあのヒラガ・サイトとかいう少年が床に座り込んでパンをかじっているのが見えた。 「ああ、美味い! 本当に美味い! 泣けそうだ!!」 がしがしと硬いパンをかじりながら、才人はやけくそでつぶやいていた。 いきなりわけのわからん世界にやってきたかと思ったら、使い魔だか奴隷だかで問答無用に服従をせまられる。 主とやらが可愛い女の子なんでこれはこれでラッキー♪かと思ったら、そいつがとんでもねーツンツン娘で。 豪華な食事の並ぶ食堂にきて喜んだかと思ったら、他の連中がご馳走をぱくついている横で、自分は残飯みたいなものを食わされている。 やけにならなければ、本当にやっていられない。 ――何が使い魔は外、だよ。そりゃ動物なら、仕方ないだろうけど。俺は人間だっつーの!! 心の中で叫ぶ中、才人はあのエルフィールという少女を思い出した。 キュルケとかいうおっぱい星人の使い魔だとかいう少女。 あの子も、こんな扱いを受けてるんだろうか? そんなことを思いながら、ふと視線を上げると、 ――あれ? 離れた席から、自分を見ている者がいる。 オレンジ色の、ここの生徒たちとは明らかに違う系統の服を着た女の子。 その横には、あのおっぱい星人、もといキュルケが。 ――ええと。 使い魔は外じゃなかったのか? それがルイズ様の“特別なはからい”とやらで、床なんじゃなかったのか? でも、あっちの使い魔さんは何か普通に、一緒の食事してるみたいなんですけれども? このへんどーなんですか、ルイズ様? 才人が内心でルイズにツッコミを入れていると、エリーはそっと才人にむかって手招きをしてきた。 ちらりとルイズの様子をうかがってから、才人は気づかれないようそーっとエリーのほうへと移動していく。 「あの、良かったら一緒に食べない?」 エリーは少し緊張したように才人に言った。 マジですか!? 願ってもない提案に、才人は歓喜で身を震わせた。 「もちろんOK!! っちゅうか……いいの? マジで?」 「うん。私、こんなにたくさん食べられないし、残したらコックさんにも悪いし……」 「だよな!? 出された料理は作ってくれたコックさんに感謝して、残さず美味しく、だよな!」 才人は壊れたような笑顔を浮かべながら、すすめられるままエリーの隣に座る。 捨てる神あれば拾う神あり。 才人は料理とともに、そんな言葉を噛み締めていた。 さっきまではとんでもねー状況だなあと半ば悲嘆しつつあったが、救いの手は意外なところから差し伸べられた。 救われた! まさに才人はそんな気分だった。 「本当にお腹すいてたんだねえ……」 目に涙を浮かべながら料理を口に運ぶ才人を見て、エリーは同情するようにつぶやく。 そんな様子を、キュルケは楽しげに見ていた。 エリーのルイズの使い魔も一緒に食事をしていいかと聞かれ、最初は驚いた。 だが、エリーが異国の人間であり、かつ平民の少女であることを思い出すと、それも消えた。 別にいけないという理由は思いつかず、この後のルイズの反応を予想すると非常に面白かったので、むしろ喜んでOKした。 ルイズのほうを見ると、このことに気づいたらしいルイズはものすごい形相でこちらを睨んでいる。 まったく面白すぎる反応だ。 軽く手を振ってやると、ルイズは今にも爆発しそうな顔で、顔を真っ赤にさせていた。 エリーはそれに気づくこともなく、同じ平民が一緒にいるのが心強いのか、安心して料理を食べ始めていた。 タバサは終始我関せずという態度である。これはいつものことだが。 やっぱり、この子がきてくれて良かった。 キュルケは改めてそう思いながら、ワインを口にした。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページもう一人の『左手』 「逃げろ?」 ルイズが、きょとんとした表情で、V3が言った言葉を鸚鵡返しに聞き返す。 当然、その言葉に従うための復唱ではない。 言われた言葉の内容を、さらに確認し直すための質問である。 ルイズだけではない。 残りの二人も、その瞬間、何を言われたのか分からない顔をし、そしてキュルケが口を尖らせた。 「なに言ってるのよ、あんた? さっきまでフーケの小屋に着いてからの段取りを、散々話し合って――」 「それは中止だ」 「ちゅっ、中止って、――分かるように言いなさいよっ!!」 そう言われて、V3は、彼女たち三人に向き直るが、無論、少女たちに、その赤い仮面の下にある表情は伝わらない。 ここは地上数十mの上空にある、風竜の背の上。 ハリケーンを乗り捨てたV3は、タバサに頼み、シルフィードの背に同乗させて貰うと、早速、空を移動しながら、作戦会議を開いた。 いかに『土くれのフーケ』が、優れたメイジであっても、複数の巨大ゴーレムを同時に錬成し、操作することは困難だ。しかも、彼女は今宵、V3を相手に大立ち回りを演じたばかりなのだ。それほどの魔力が残っているとは、とても思えない。 ならば、ギーシュのように、小型のゴーレムを錬成して、集団行動を取られたら――いや、それはあり得ない。少なくとも、等身大のゴーレムでは、束になってもV3の相手にはならない。それくらいは理解しているはずだからだ。 ならば、女に出来る事は、もはや限られてくる。 そう思って仮説を立て、役割を決め、結論を出した。 ――まさに、その時だった。 V3ホッパーは、今もなお、リアルタイムでフーケの山小屋を監視している。 そして、その映像を受信した瞬間、V3は、これまでの“軍議”が、この一瞬で、完璧に意味を為さなくなった事を知ったのだ。 体内に核爆弾を内蔵した、デストロンの自爆テロ怪人――カメバズーカ。 いま“現場”で何が起こっているのか、それを説明する時間は無い。 だいたい、何故あの場にカメバズーカがいるのかも、V3には分からない。 だが、分かる事はある。 カメバズーカが自爆すれば、山小屋から半径数十kmの範囲で、全てが吹き飛ぶという事だ。 才人とフーケは、物凄いスピードで、怪人から逃亡中であり、今すぐにでも、彼ら二人を回収し、全速力で避難しない限り、まず全員助からない。 だが、――繰り返すようだが、それを理解して、納得してもらう時間は無い。 向かい風に吹き飛ばされないように、竜の鱗にしがみ付きながら、こっちを窺っている三人娘に、そこまで大人の洞察力を期待するのは、どだい無理な話だ。 ましてや、この“子供たち”は、未だにこの自分――V3の能力を疑っているのだから。 そう思った瞬間、タバサという名の少女が、口を開いた。 「何かあった?」 「ミス・タバサ、だったか」 「なに?」 「このドラゴンの背には、あと何人、人を乗せられる?」 「二人までなら。でもその分、速度は遅くなる」 ふたり――と聞いた瞬間に、V3は、この寡黙な少女が、自分の考えを、ほぼ予測している事を理解し、思わず仮面の下の口元をほころばせた。 タバサの言う二人は、確実に、才人とフーケを指している。そうでなければ、この状況で、敢えて『二人』という人数を口に出すはずが無い。 何が起こったのかは知るまいが、何かが起こった、という事を察してくれるだけで、V3にとっては充分だったからだ。 騒がしい他の二人とは違う。このタバサという少女は、おそろしく冷静だ。 その幼い外見に似合わず、おそらく、相当の場数を踏んでいるのだろう。 自分たちを、ひたすら放置して話を進めるV3とタバサに、キュルケは再び、口を尖らせようとしたが、 「――サイトっ!!」 そう、下を見て叫ぶルイズの声に、遮られる。 「えっ!?」 あわててシルフィードの背から、下を覗くキュルケ。 ――なるほど、確かに、ルイズの使い魔と思しき少年が、腰を抜かしたらしい女性を抱えて、脱兎のごとく駆けてくる。 (でも、――あれって、たしかミス・ロングビル……?) ミス・ロングビルこそが『土くれのフーケ』その人ではなかったのか? カザミやコルベールが、学院長相手にそういう話をしていたはずだが、ならば何故、あの少年は、自分を人質にして攫った女を連れている……? (フーケから、ではなく、フーケとともに逃げている。――何から……?) 「タバサ!! 早くサイトを、サイトを助けてっ!!」 ルイズが叫ぶ。 あなたに言われるまでもない。――そういう表情こそしていなかったが、ルイズが、金切り声を上げるよりも早く、タバサはシルフィードに急降下の指示を出していた。 ふわり。 ほとんど体重を感じさせない優雅さで、風竜が、才人の眼前に舞い降りる。 突然目の前に現れた怪獣に、才人もさすがにギョッとするが、 「サイトぉっ!!」 耳元にイキナリ飛び込んできた悲鳴のような呼び声に、瞬時に胸を落ち着かせた。 暇さえあれば怒鳴りあい、四六時中喧嘩ばかりしていたはずなのに、こんな危機的状況で聞ける事に、妙な嬉しさや懐かしささえ覚えてしまう、その声。 「ルイズ……おれを助けにきてくれたのか……!」 が、次の瞬間、 「平賀、乗れっ!! 一刻も早くここから離れるんだっ!!」 そう言って、自分と、脇に抱えたフーケを、風竜の背に放り投げた男の声。 人間を、まるでヌイグルミのように軽々と扱う、人ならぬパワー。 赤い仮面の異形の男――仮面ライダーV3。 その瞬間、才人は自分たちを取り巻く、信じがたいほどの危機的状況を思い出していた。 「かっ、風見さんっ!! かっ、怪人が――デストロンの改造人間が!!」 「あぶないっ!!」 全体重、そして背に乗った5人の体重をプラスし、その時のシルフィードの体重は、数トンはあったであろう。それを軽々と突き飛ばしたのは、V3であればこそだ。 だが、シルフィードを突き飛ばしたために、さっきまで“彼女”が居た着弾地点に、丁度V3が立つ事になり、その結果、まともに彼は喰らってしまった。 一人の少年、三人の魔法少女、そして一人の女盗賊を、ドラゴンの幼生ごと木っ端微塵にするはずだった、カメバズーカの直撃弾を。 「きゃあああああっ!!」 深夜に響くキュルケの悲鳴は、ドラゴンごと突き飛ばされた事に対するものか、それとも、その後に続いた、謎の大爆発に対してか。――しかし、その叫びも、月下に響く地獄のうめき声を前に、跡形も無く消し去られた。 「ズゥゥゥゥゥカァァァァァッ!!」 「――な……なに……あれ……!?」 ルイズが、思わず呟く。 煌煌と輝く月光の下、ゆっくりと――だが、一歩一歩踏みしめるような足取りで、こちらに近付いてくる、一匹の“ばけもの”。 一同は、凍り付いていた。 このハルケギニアには、確かに人ならぬ身でありながら、人を凌ぐ力を持つ存在がいる。 エルフを頂点とした亜人たち。 韻獣と呼ばれる神獣、霊獣、幻獣ども。 だが、この怪物は、そのいずれでもない。 見た者の心胆を瞬時に寒からしめる、凄まじい妖気。まるで伝説のエルダードラゴンの咆哮を聞かされたようだ。 冷静無比なタバサでさえ、自らを襲う激しい恐怖に、抗う事も出来ない。他の女たちの精神状態など、もはや言うを待たない。 その中で、才人だけが、唯一マシと言える心の平衡を保っていた。 それゆえに、彼は周囲を見回し、――目撃してしまう。 カメバズーカの直撃弾を喰らって、ボロキレのように大地に横たわる男の姿を。 この場にいる六人目となるはずの人物。 あの怪物と戦うことの出来る、唯一の存在。 (かっ……風見さん……っっ!!) 仮面ライダーV3――風見志郎。 しかし、いかに直撃弾とはいえ、並みの榴弾砲くらいなら、仮面ライダーが一撃で立てなくなるほどの傷を負うなど、少し考えにくい。 ――だが、 (あの時、風見さんは、……おれを助けようとして、ゴーレムに蹴り飛ばされていた……) そのダメージなのか。 そう思った瞬間に、奥歯が鳴った。 「おれのせいだ……!!」 未だナタを握りっぱなしだった、才人の左手のルーンが、激しく輝いた。 「まてえっ!!」 少年は立ち上がった。 「これ以上、みんなに手は出させねえ」 自分自身に対する、どうしようもない無力感。その無力感に対する怒りが、恐怖を凌駕していた。 その手に携えるは、とうてい切れ味鋭いとは言いがたい、赤錆びたナタ。 「サイト……!?」 直撃弾を回避したとはいえ、衝撃波をもろに喰らって、眼を回しているシルフィード。 そして、そんなドラゴンの背から放り出され、恐怖に声を上げることさえ出来ない女性たち。 そんな彼女たちを庇うように、才人はナタを構えた。 彼曰く、無理やり召喚され、臣従を誓う義理さえないはずの主のために、見るからに頼りなげなナタ一本で、悪夢のような“ばけもの”相手に立ち向かわんとする、この少年。 ルイズには、自分の目が信じられなかった。 才人は、風見とは違う。 自らの肉体に、絶対的なパワーを宿す改造人間ではない。 ――魔法すら使えない、ただの『平民』なのだ。 「うわぁぁぁぁぁあああああっ!!」 何かが、口を突いて、少年の中から吐き出されていた。 それは、あえて退路を絶たれた、手負いの獣の絶望だったかも知れない。 だが、叫んだ瞬間に、才人の身体は動いていた。 眼前の“ばけもの”に、せめて一矢報いるために。 こんな薪割り包丁一本で、“怪人”と戦えるなどと、彼も正気で思ってはいない。だが、もはや才人の脳髄は、完全に思考を放棄していた。 「サイトぉぉっ、止めなさい、逃げてぇぇぇぇっ!!」 もはやルイズの声も、彼の耳には届かない。 ガンダールヴのルーンが、彼の身体能力を向上させ、その一撃に、更なる力を付与する。 赤錆びたナタが、鉄兜ごしに頭蓋すら叩き割る威力を持って、いま、怪人の脳天に振り下ろされた!! 「!!」 その瞬間、才人の目は捉えていた。 亀の頭部が、瞬時に甲羅の中に引っ込み、その一撃を甲羅で防御するように、カメバズーカが少しばかり、うつむいたのを。 鉄骨が砕け散るような、耳障りな金属音が、闇に響いた。 才人の手に握られたナタは……文字通り、木っ端微塵に砕け散っていた。 赤錆びた、薪割り用のナタでは、ルーンによって増幅された才人の腕力と、戦車装甲のごとき甲羅の硬度に、とても耐えられなかったのだ。 カメバズーカの手が、するすると伸び、才人の右手を捕らえる。 「ぐっ!?」 捻り上げられ、柄だけになったナタが、才人の手からこぼれ落ちた。 頭部を甲羅に引っ込めたままなのに、何もかも見えているように、動きに無駄が無い。 それだけではない。 この手首を鉄環で締め付けられたような、このパワー! 改造人間だから当然とも言えるが、才人は全身に電流を流されたような激痛を前に、息すら出来なくなってしまう。 だが、それでも才人は諦めない。 いまだ戦意を失わない目で、眼前の怪人を睨みつけた。 「ズ~~カ~~、大したもんだぜ小僧。まさか、こんなチャチなエモノ片手に、俺様に向かってくる人間がいるなんてなぁ。――しかも」 その時才人は気付いた。 甲羅の穴から、妖光を放つ二つの目が、自分を睨み据えているのを。 ずずっ、ずずずず~~~。 粘着質な音を立てて、亀の頭部が、甲羅からゆっくりとせり出されてくる。 吐き気さえ催させる眺めであったが、――それでも才人は、カメバズーカの眼光をはね退けた。 「――こぉんな状況でまだ、そんな目ができるなんてなぁ」 ごきり。 怪人に握り締められた右手首の骨が、聞こえよがしな悲鳴をあげる。 (っっっ!!) 「いま謝れば、命だけは助けてやるぜぇ」 亀裂のような笑みを浮かべながら、カメバズーカが笑う。 だが、才人は唇を噛みしめて、呻き声すら上げなかった。 いや、たとえ、この場で八つ裂きにされたとしても、悲鳴一つ上げる気は無かった。 声を上げれば、必死になって自分を奮い立たせている最後の意志が、砂のように崩れ落ちてしまいそうだったから。 また、力を振るう事に喜びを覚えている、このカメ野郎の目が、いつかのギーシュと同じ、とても傲慢な光を帯びているように見えたから。そして、その目の色は、才人自身がこの世で一番嫌う感情の光だったから。 「お前に謝るくらいなら……死んだるわい……!!」 才人は、いまだ自由な左手で、眼前の敵を殴りつける。 右手を万力のような握力で締め付けられ、捻り上げられ、とうていパンチに力がこもるような体勢ではなかったが、それでも構わない。 いうなればこれは、彼の最後の意地であった。 その時だった。 数発目かの才人の拳が、カメバズーカに触れた途端、左手のルーンが再び光を放った。 (これは……!?) あの時と同じだった。 カメバズーカの正体を知らず、フーケに命令されて『破壊の杖』を触った時。 その時と同じ、圧倒的なまでの情報が、才人の脳に流れ込んできたのだ。 生きながら、『兵器』と呼ばれるに恥じない肉体に改造された男。その男の情報が。 「俺の息子も、お前くらいホネがあれば、一安心なんだがなぁ」 そう呟いたカメバズーカから溢れ出してきた“情報”は、記憶。 まだ彼が、デストロンに誘拐される以前―― 一人の普通な、どこにでもいる健康な父親だった頃の、人間の記憶……。 「平田……拓馬……?」 カメバズーカの瞳が、ふっと翳った。 「小僧……お前、なんでその名前を……!?」 「サイトぉぉ、逃げてぇぇぇ!!」 その時だった。 ルイズの悲鳴のような叫びが鳴り響くと同時に、カメバズーカの背後の地面が、突如、大爆発を起こしたのだ。 彼女が気力を込めて振り出した『ファイヤーボール』の結果だった。 「ぐおっ!?」 カメバズーカは、才人ともつれるようにして、前方へと吹き飛ばされる。 さすがに、背後から爆風を喰らった程度では、彼の甲羅はびくともしない。 だが、口に入った土を吐き出しながら、顔を上げた瞬間、カメバズーカは見てしまった。 かつて自分を、地獄に叩き送った者たちの片割れを。 よろめきながらも立ち上がり、その射るような視線を自分に向けてきた、その男。 ――誰が忘れる事が出来るだろう。その赤い仮面を。 「そこまでだ……カメバズーカ……!!」 その瞬間、カメバズーカの思考は消えた。 あるのはただ、圧倒的なまでの破壊衝動――そして、歓喜。 なぜ奴がここにいるのかは分からない。 だが、奴はここにいる! 自分を殺し、存在意義であった『東京都破壊計画』を失敗させた、憎むべき“敵”の姿が、ここにある!! 「仮面ラァァァァイダァァァァV3ィィィィッッッ!!」 後方からの爆風に煽られてなお離さなかった才人を、まるで人形のように放り出すと、カメバズーカは、その名に似合わぬ、弾丸のようなスピードで、V3に襲い掛かった。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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エリンディルという大陸がある。 その大陸には、巨大な雲が降りて来たかのような霧に包まれた森があった。国の一つや二つを足してもなお森の広さに届かないほどの広大な森。 エリンディルの人々はその森を称して霧の森、と呼んでいる。 千年の昔から霧が晴れた事のないその森は、霧だけではなく雨もよく降りしきる。今日もまた、霧雨が止む気配もなく森を濡らす。夜も明けようとしているのに、太陽の光は今日も霧と雲に遮られてろくに森に届きはしなかった。 霧の森の外れの大きな木の下。 そこにあるのはつい先程盛られたばかりとおぼしき土の山。その頂に立てられたガーゴイルを模したような人形のようなオブジェが、寂しく霧雨を浴びていた。 その土の山はさして大きくない。人一人が入るだけの穴を掘り、その中に人を埋めて再び土を被せた程度の大きさ。 ――つまりは、即席の墓である。 この中に眠っている一人の男は、人間ではない。正確に言えば人工生命。自然ならざる方法で生み出された者達の部品を組み合わせて作り出された、人ならざる者。 けれどその心は……誰よりも人間臭く、人間らしかった。 だが最早その肉体に心はなく、魂も宿ってはいない。 土の下の肉体には無数の刀傷が刻まれ、纏っていた衣服も切り裂かれ血塗れになり、その残骸だけが彼の遺体を包むのみだった。 彼の仲間だった者達は、既にこの場を去った。 彼を含めた四人の旅人達は、戦いの旅を続けていた。 幾度もの戦いを潜り抜け、軽口を叩き合い、笑い合っていた仲間は……ほんの僅かな時の壁に遮られ、彼を助ける事が出来なかった。 少女は呆然と泣き、青年は属していた組織を離れ、女は沸き上がる激情を噛み殺して無言を貫いた。彼の育ての親とも言える幼女は、むせび泣いた。 だが彼は、何の感情も表す事は出来なかった。 死んでしまったからだ。 仲間達は最後まで、墓の前を離れることを躊躇った。このまま去ってしまえば、これまで共に旅してきた仲間と永遠の別れをしなければならなくなるのだから。 現実を受け入れたくなかった、と言った方が正しいのかもしれない。その日の昼には共に昼食を取り、昼寝をし、川で水遊びをし、下らない冗談でただ笑い合っていた仲間が、今は見るも無残な亡骸と成り果てて二度とかつてのような時間を過ごせなくなったのだから。 けれど、旅を止める訳には行かなかった。 だから仲間達は、後ろ髪を引かれながら彼の許から去った。 ――再び、静寂が訪れる。霧雨ばかりが降り注ぐ静寂のみが。 そんな時だった。 不意に厚い雲が割れ、その狭間から鮮やかな金色の陽光が霧を照らしていく。 空を覆う雲からすればそれは王の間に敷かれた絨毯に針を刺したほどの、僅かな狭間。だが。その狭間から漏れる光は、彼が眠る土の山を煌々と照らし出すには、十分な量を持っていた。 土の山に降り注いでいた霧雨は、そこの空間だけ切り取ったかのように降るのを止め、広大な森を千年の間包み込んでいた霧は、その場だけ完全に消え失せてしまった。 周囲の森は以前寒々とした空気を漂わせている。だが、そこだけは。 まるで春の木漏れ日を思わせる、暖かな心地よい空気ばかりが流れていた。 ――ふと、そこに一人の少女が立っていた。 背丈は小さい。だが地面に付くほど長い柔らかな白髪からは、金の光が発せられている。 その姿を見る者がいたならば、彼女の身体を通した向こうにうっすらと森が見える。 彼女は肉体を持っていないらしかった。見る者が見ればそれは幽霊か精霊か、と判別することが出来ただろう。しかし完全に彼女の正体を知る者は、おそらくはいない。 彼女は、金の瞳を土の山に向け。憂いの色を、そっと瞳に浮かばせた。 「……貴方は、ここで死ぬべきではなかったのかもしれない」 誰が聞くわけでもない独白を、静かに紡いでいく。 「けれど運命は、貴方に死を与えた。それは避けられたかもしれない運命。でも今、ここに厳然と存在してしまった運命。それを覆す事は――もう、出来ない」 淡々と紡がれる言葉。けれど痛々しいほど悲しみを含んだ、言葉。 「貴方の愛した仲間達との旅は終わってしまった。――けれど」 少女は、そっと両手を土山に翳す。 「貴方を必要としている人は、存在している」 両手から現れるのは、淡く緑色に輝く鏡のような、“何か”。それは地面と垂直に立っていた。 「貴方が生きるべきだった運命とは少し異なってしまうけれど」 緑の鏡のような“何か”に吸い寄せられるように、土の中から男の亡骸が浮き上がってくる。浮き上がる亡骸は、“何か”……いや、少女に近付いていけば、徐々に男の体から傷が消え、衣服の残骸だった物も段々と形を取り戻していく。 「貴方には、もう一人。支えてあげてほしい女の子がいるの」 やがて、鏡の前に彼が浮かんで止まった時には、彼は生前の姿を完全に取り戻していた。 「――再び、生きて」 彼女の囁きと共に、彼の身体は“何か”に吸い寄せられ。エリンディルから消え去った。 時間にして、僅か。雲を割った狭間が、風に吹かれた雲に再び遮られる程の時間。 そこは何事もなかったかのように、先程までの光景を取り戻し、盛り土はなおも変わらず盛られたばかりの姿を取り戻していた。 その盛り土の中に男はいない。 その盛り土の前に少女もいない。 運命の悪戯によって仲間と分かたれた男は、エリンディルを去った。 ダイナストカバル極東支部長、トラン=セプターの旅は終わりを告げた。 けれどそれは全ての終わりではない。 新たなる冒険の始まり、だった。 そして彼は、目覚める。 草むらに倒れ付している自分を見下ろす、かつての旅の仲間だった少女と似たような背丈の美少女……だが、纏う雰囲気は決定的に違う。 「あんた、誰?」 トラン=セプター。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 運命の大精霊アリアンロッドの、導きであった。
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第二話 黒衣の悪魔 宇宙同化獣ガディバ 登場! ルイズと才人がウルトラマンAの力を得て、異次元人ヤプールの尖兵たる、ミサイル超獣ベロクロンを倒してから2日が過ぎた。 2人を含む魔法学院の関係者達は、平時には通常通り学業に専念するようにとの指示が出、破壊された街も、勝利に喜ぶ民達によって、急ピッチで復興されていっていた。 が、当の二人はといえば、ウルトラマンの宿命として正体を明かすわけにもいかずに、結局は『ゼロのルイズ』と『犬のサイト』の元の鞘に納まってしまっていた。 「はぁ、俺本当にウルトラマンになれたのかなあ?」 例によって水場で洗濯物の山と格闘しながら才人はぐちっていた。 彼としては、子供のころからTVや本のドキュメンタリーや記録映像で見た科学特捜隊やウルトラ警備隊の隊員達のように、颯爽と怪獣と戦うのにあこがれていただけに、相も変らぬ使い魔生活にいまいち実感が湧かないのである。 だが、地球を守ってきた歴代のウルトラマン達にも人間としての生活はあった。 才人と一体化しているAだって、北斗聖司と呼ばれていたころにはアパートに一人暮らししていたころもあったし、当然衣食住は自分で管理していた。 さらに中には血反吐を吐くような猛特訓をこなしたり、教師やボクサーを兼業したウルトラマンもいたが、さすがに才人にそれを求めるのは無茶であろう。 「いつも大変ですね才人さん」 振り向くと、黒髪の愛らしいメイドの娘が洗濯籠を持って立っていた。 「ああ、シエスタ、君も洗濯かい?」 「はい、私はそんなに多くないので、お手伝いしますよ」 才人は喜んでと言うと、さっきまでの憂鬱はどこへやらで、うきうきと洗濯にはげみはじめた。 そのはげみぶりはアクセルがかかりすぎたようで、たいした量を持ってこなかったはずのシエスタの分が終わる前に自分の分が終わってしまった。 仕方が無いから逆にシエスタの分を手伝うことにしたが、それでも彼はうれしそうだった。 「平和ですねえ」 「え?」 「つい2日前くらいには、トリステイン中この世の終わりかもって雰囲気だったじゃないですか。けど、今私達はこうして安心して洗濯をしていられる。平和って本当にいいものですね」 「……ああ、本当に平和っていいもんだな」 才人は幸せそうに笑うシエスタの顔を見て、「ああ、俺がこの笑顔を守ったんだな」とようやく実感した。 虚栄や見返りではない、ウルトラマンや歴代の防衛チームが命を賭けて守ろうとしたものの一端が、少しずつ才人にも芽生えつつあった。 「それもこれも、ウルトラマンAさんのおかげですね」 「ああ、ウルトラマンAのおかげ……あれ? なんでシエスタがウルトラマンAのこと知ってるの!?」 才人は、まさか正体がばれたのではと、内心冷や汗をかきながらシエスタに問いかけた。 「いやですね。才人さんとミス・ヴァリエールがそこかしこでウルトラマンAウルトラマンAって話し合っているじゃないですか、その名前、もう軍のほうで決まったんじゃないんですか? もう学院中の人がその話題でもちきりですよ」 そう言われて才人ははっとした。 そういえば最初の変身の後から今まで、やれ魔法を使わずにどうやったらあんなことができるのとか、あんたのとこにはあんな強いのがいっぱいいるのとか、 いろいろ場所を選ばず、控えめに言っても議論を交わすといったことをしていた気がする。 (噂千里を走るとは、昔の人はうまいことを言ったものだ) 彼はとりあえず正体がばれていなかったことにほっとしながら、ウルトラマンAにこの国の人が変な名前をつけなかったことにもほっとした。 「でも本当にウルトラマンAは私達の恩人です。街でも、いわく、王家が隠していた伝説の幻獣、いわくはるか東方の聖地よりやってきた正義の使者、はては始祖ブリメルの化身などなどすごい話題になってますよ」 街でもなの!? 才人はつくづく自分の軽率さを呪いたくなった。 これからはウルトラマンの話題はルイズとふたりだけの時にしようと、心に誓った。 シエスタは、妙に顔色が悪くなった才人を不思議に思いながらも、そんな才人さんもすてき、などと蓼食う虫も好き好きなことを考えていた。 そして、全部の洗濯物を洗い終わって洗濯籠を抱えあげたとき、当のルイズが現れた。 「ん? ルイズどうした、洗濯なら今日はこのとおり何事も無く終わったぜ」 「あ、そう。今日はおしおきの新バージョンを用意していたのに残念ね。って、違う違う、あんた忘れたの? 今日は虚無の曜日でしょうが」 「……ああ、そうか悪い悪い、すっかり忘れてたよ」 「ったく、記憶力の無い鳥頭なんだから、暗くなる前に帰るから急ぐわよ」 「了解っと、しまった、洗濯物が」 「サイトさん。私がやっておきますから急いでください」 「サンキュー、おみやげ買ってくるから待っててくれよ。おーい、待てよルイズ!!」 ルイズを追って才人の後姿が遠ざかっていく。 シエスタはふたり分になった洗濯物をよいしょと持ち上げると、その平和の重みをかみしめながら歩いていった。 一方そのころ、トリステインの王宮においても、先日の事後処理がようやく一段落付いて、国の重要人物を集めた会議が開かれようとしていた。 「やれやれ、こうも会議会議じゃ老骨にはこたえるのお」 その席の一角にオブザーバーとして招かれていた魔法学院のオスマン学院長がいた。 彼がいるのは防衛軍に少なからぬ数の生徒が志願兵としていることからであったが、貴族同士の会議に口を出すほどの権限は無い。 「皆さん、我々が半月前に現れた未知の侵略者、ヤプールの脅威にさらされているのはもはやハルケギニア全土に知れ渡った事実であります。 けれども我々は、総力を結集して対ヤプール軍を組織し、この脅威に対抗しようとしています。しかし、今回は新たに浮上した重要な案件について話し合うべく、集まっていただいた次第です」 枢機卿マザリーニが、会議の口火を切った。 ヤプールに次ぐ新たな課題、すなわち銀色の巨人、ウルトラマンAのことについてだ。 その正体については誰もはっきりとした答えを言えた者はいなかったが、その人知を超えた力については大いに彼らの興味を引いていた。 あの超獣ベロクロンでさえトリステインの誇っていた軍を敵ともせず、いかなる魔法攻撃にもびくともしなかったのに、あの巨人はその攻撃を易々と跳ね返し、その腕から放たれた光はその巨体を粉々に粉砕してしまった。 だが、議論すべき要点はそこでは無かった。 「こほん、皆さん。その問題はそのあたりでよろしいでしょう。結論として、我々では到底及ばない強大な力を有していることははっきりしています。肝心な問題は、あれが我々の敵か味方か、ということです」 枢機卿がそう宣言した瞬間、場の空気が変わった。 だが。 「無駄なことじゃのう」 と、水をかけたのは他ならぬオスマンだった。 「なんですと、オスマン殿、それはどういう意味ですかな?」 「敵なら我々はとっくに滅ぼされていますよ。それに、あの巨人、ウルトラマンAは我々を守るように現れたし、街にも民にも被害は与えずに飛び去った。第一、仮に敵だとして、超獣以上の力を持つ相手に打つ手などあるのですか?」 言われて見ればそのとおりである。 喧々轟々の議論を予想していたマザリーニにとっては意表を突かれた形だが、周りの貴族達も効果的な反論などはできずに、せいぜいオスマンの無礼を非難する程度であった。 もっともそれも、オスマンがあっさりと非礼を詫びたために貴族達もそれ以上の言及はできなかった。 「おほん、ではこれにて会議を終了いたします。方々にはそれぞれの領地の軍属の精鋭を防衛軍に派遣なさいますよう。 今のままの寄せ集めでは所詮急場しのぎですし、ヤプールが優先して狙うとしたら、ここしか無いでしょうからな」 会議は時間をかけた割には、わら半紙数枚分の密度の内容で終わった。 ただ、この会議からウルトラマンAの名が急激にトリステイン全体からハルケギニア全体へと広まっていくことになったことについては、意味があったと言えよう。 さて、ウルトラマンAのことで国が揺れているとは露知らず、当のルイズと才人は今、虚無の休日を利用して久しぶりに街に繰り出してきていた。 「相変わらず人が多いな。復興が順調だって証拠だ」 「当たり前よ。トリステインの人間はそうそう簡単に国を捨てるほど軟弱じゃないわ、むしろ復興のための資材を運ぶために普段より多いくらい。何度も言うようだけどスリには気をつけなさい」 「はいはい、ところで目的の武器屋はこの先だったよな。このあたりは被害が少なかったから無事だとは思うけど、開いてりゃいいな」 ふたりは路地裏へと入っていった。 目的はベロクロンの騒ぎのせいで買いそびれてお預けになっていた才人の剣の購入、そして目的の店は幸いにも以前と変わらない形でそこにあった。 「おや、これはこの間の貴族の旦那、お久しぶりでやんすね」 店の主人も以前と変わらなくそこにいた。 「失礼するわね。この店、もしかしたら踏み潰されてるんじゃないかと思ったけど、なかなかしぶとい様子ね」 「あっさり死ぬような奴はこの世界じゃやっていけませんやな。そいで、前回は顔見せしたとこで超獣のやろうが出てきてお流れになりましたけど、武器をご所望で?」 「私じゃないわ、使い魔よ」 ルイズはかたわらで物珍しげに武器を眺めている才人をあごで指した。 「へえ、最近は貴族の方々も下僕に武器を持たせるのがはやっておりましてね。毎度ありがたいこってす」 「貴族が武器を? そういえば以前来たときに比べて武器の数が減ってるわね。やっぱりヤプールのせい?」 「それもあります。今、国では壊滅した軍の再建のために武器の類が飛ぶように売れとりましてね。まあ、あまり役に立つとも思えませんが」 主人の言葉にルイズは少々不愉快になったが、言葉にすることはできなかった。 確かに、剣や槍を何万本揃えたところで、あの小山のような超獣に勝てるとは到底思えない。 「ですが、理由はもうひとつありましてね。最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてまして」 「盗賊?」 「へえ、名前は『土くれ』のフーケって言いまして、貴族を専門にお宝を盗みまくる怪盗でしてね。あの超獣騒ぎで大人しくなるかもと思われたんですが、 むしろ騒ぎに乗じて派手に動くようになりましてね。貴族達も対抗しようにもヤプールのおかげでそれどころじゃないってんで、実質やりたい放題ですな」 「国が大変な時期だってのに、皆の足を引っ張るなんてひどい奴がいたものね」 ルイズは、国のために貴族も平民も必死になっている時に、そんなことをする奴が同じ国の中にいることに憤りを覚えた。 「まあまあ、それで貴族達も自衛のためにこうして武器を下僕にまで与えて身を守っているってことです」 主人は「ま、役に立ったという話はとんと聞きませんが」という一言を我慢して飲み込んだ。 そのとき、武器を物色していた才人が一本の長剣を持ってきた。 「サイト、気に入ったのでもあった?」 「ああ、おじさん、この剣はどうかな?」 才人はその剣を主人に見せたが、主人はだめだだめだというふうに首を横に振った。 「坊主、それはやめとけ、そいつは見た目切れそうに見えるが実際は重さと力を利用して敵を叩き潰す、いわばこん棒に近い武器だ、お前さんの細腕じゃ扱いこなすのは無理だ」 それは決して親切心からではなく、後で貴族にクレームをつけられることを恐れての忠告であったが真実であった。 才人はがっかりした様子でその剣を元に戻した。 「ちぇっ、なかなかかっこよさそうだったのに、残念だなあ」 実は、才人は特に考えた訳ではなく、その剣が少し日本刀に似ていたから手に取っただけであった。 だが、そのとき突然かたわらのガラクタの山の中から、調子のはずれた声がした。 「生言ってんじゃねーよ、坊主。おめーは自分の体格も理解してねーのか、そんなんじゃ武器を持っても即あの世行きがオチだ、そっちのガキんちょを連れてとっとと帰りな」 「なんだと!」 「誰がガキんちょですってぇ!!」 ふたりは悪口が飛んできた方向を見たが、そこには2足3文でしか売れないような数打ちのぼろ刀が並んでいるだけで人影は無かった。 「どこを見てるんだ。ここだここだ、目の前だよ」 なんとぼろ刀に混ざっていた一本のこれまた錆と汚れだらけの長剣が、カタカタとつばを鳴らしながらしゃべっている。 「これって、インテリジェンスソード? こんなところにあるなんて」 「なんだい、それ?」 「一言で言うと魔法で意思を持たせられた剣のことよ。でもそんなにありふれた物じゃなくて、私も見るのは初めてよ」 驚いているルイズをよそに、才人は好奇心のおもむくままに、そのしゃべる剣を手に取った。 「へえ、見た目は普通の剣と変わらないな。お前、名はなんつうんだ?」 「けっ、人に聞くときは自分から名乗るものだ……ん、まさか……おでれーた、お前『使い手』か」 「『使い手』?」 「なんだ、そんなことも知らねえのか。まあいい、これも何かの縁か、俺の名はデルフリンガー、お前はなんていう?」 「平賀才人、よろしくなデルフリンガー。ルイズ、俺こいつにするよ」 才人の意思決定にルイズは露骨に嫌そうな顔をした。 ぼろい、汚い、切れそうに無い、おまけにうるさいとルイズとしては気に入る要素が無かったからだが、結局は才人の。 「でもしゃべる剣なんて珍しいだろ」 の、一言でやむなく承諾した。 「感謝しなさいよ。使い魔のわがままを聞いてあげる主人なんて、普通いないんですからね」 それ以前に主人にわがままを言う使い魔自体が普通いないが。 「感謝してるよ。お前もそうだろデルフリンガー?」 「デルフでいいぜ、よろしくな譲ちゃん」 「譲ちゃんじゃないわよ! たかが私の使い魔の、そのまた下の剣の分際でなれなれしく呼ばないで、下僕らしくルイズ様とお呼びなさい!」 「へーへー、分かったよ譲ちゃん。ん? そういえばお前ら、さっきから妙に思ってたが変わった気配を放ってるな」 「えっ!?」 デルフの思わぬ言葉にルイズと才人は思わず固まってしまった。 「なんつーか、長年人を見続けてると気配を読むのがうまくなってな。なんというか、ふたりだけなのに3人に思えるような、それでいてふたりでひとりのような」 「なな、なに言ってるんだよ、そんなことあるわけ無いだろう!」 「そ、そうよ。何言ってるんだか、ずっとガラクタといっしょに居たからボケたんじゃないの!」 ふたりは慌ててそれを否定したが、冷や汗を流して言葉を震わせて言っても説得力がない。 「ま、そういうことにしといてやるよ」 デルフに顔があったらニヤリと笑ったに違いないだろう。 才人は、この新しくできた奇妙に鋭い同居人を選んでしまったことを少々後悔しはじめて、さらにそれ以上の殺気を送ってくるルイズに、今晩はメシ抜きかなあと思わざるを得なかった。 しかし、ヤプールの魔手は平和を取り戻そうとしている人々の願いとは裏腹に、闇の中から静かに動き始めていたのである。 その夜、月も天頂から傾きだすほどの深夜、とある貴族の屋敷から音も無く現れる人影があった。 長身で細身のようだが、黒いローブを頭からすっぽりとかぶって容姿は分からない。 だが、石畳の上をまったく音も立てずに歩む様は、それが常人ではありえないということを暗に語っていた。 「まったく、ちょろいもんだよ。貴族なんてのはどいつもこいつも、兵隊の数こそアホみたいに揃えてるくせに配置も甘いし居眠りしてる奴もいる。警戒してるつもりなんだろうけど、芸が無いったらないね」 そいつは少しだけ振り返ると、今出てきた貴族の屋敷を見てせせら笑った。 見上げた姿に、わずかに風が吹いてローブの下の顔が月明かりに晒される。なんとそれの正体は女性であった。 年のころは20から30、緑色の髪がわずかにこぼれて美しいが、整った顔には凄絶さが漂っている。 彼女こそが土くれのフーケ、トリステインを騒がせている怪盗その人である。 「まあ、この国のレベルも貴族の体たらくがこれじゃたいしたことは無いね。けど、まだ済まさないよ、忌々しい貴族ども……」 フーケはその腕の中に、今奪ってきたばかりの宝石類を握り締めながら、憎しみを込めた眼差しを貴族の屋敷に向けていた。 と、そのとき。 「復讐したいかね?」 「!! 誰だ」 突然背後からした声に、フーケはとっさにメイジの武器である杖を抜いて身構えた。 「ふふふ」 そこに立っていたのは、コートからマント、帽子にいたるまですべて黒尽くめで身を固めた一人の男だった。 年齢は壮齢と老齢の中間あたり、わずかにしわの刻まれた顔を歪めているが、目はまるで笑っていない。 (そんな、この私がまったく気配を感じられなかった!?) 自身も相当な場数を踏み、熟練の傭兵やメイジ相手にも渡り合えるだけの実力はあるはずだ、だがこの男が現れるのはまったく予期できなかった。 「何者かと聞いているんだ!?」 フーケは胸の動揺を抑えながらも、つとめて冷静に男に問いかけた。 「なに、怪しい者じゃ無い。ただ、君の願いをかなえてあげようと思って来たんだ」 「願い、だって?」 「そう、君は憎いのだろう? 貴族が、君からすべてを奪っていった者達が、だからこんなことをしている……だが、こんなものでいいのかい?」 「なに?」 「いくら秘宝を盗んだところで貴族からしてみれば微々たるもの、時が経てば埋め合わせされてしまう。それよりも、もっと深く、もっと血の凍るような恐怖を奴らに与えてやりたいとは思わないかね?」 「殺人鬼にでもなれって言うのか、寝言は寝て言いな!!」 男の言い口に怒りを覚えたフーケはすばやく呪文を唱え、杖を振るった。 たちまち男の周辺の地面が盛り上がって腕の形を取り、男をむんずとわしづかみにする。 「おやおや……」 「あたしはあんたみたいなのと関わってる暇は無いんだよ。死にな!!」 フーケが力を込めると土くれの腕が男を締め上げる。普通ならこれですぐさま圧死してしまうはずであった。 しかし。 「まったく、気の強いお嬢さんだ」 「ば、馬鹿な!?」 なんと男は鉄柱でさえ握りつぶしてしまうほどの圧力を込められながらも笑っていた。 そして、男が軽く腕に力を込めると、土くれの腕は内圧から粉々に砕け散った。 「くっ、化け物め!!」 フーケはとっさに目の前の地面に魔法をかけて砂埃を発生させ、そのまま踵を返して走り出した。 悟ったからだ、この男は普通じゃない、このままでは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。 だが、走り出そうとしたフーケは10歩も走らぬうちに立ち止まってしまった。 「な、なんだ、ここはどこだ!?」 なんと周囲の風景が一瞬のうちに変わっていた。赤や青の毒々しい空間が回りを包み、今まで居たはずの町並みも貴族の屋敷も何も見えない。 「無駄だよ。ここはもう私の世界だ、どこにも逃げ道などはありはしない」 「なにっ、ぐわっ!?」 振り向く間もなくフーケは男に首筋を捕まれて宙へ持ち上げられた。フーケは振りほどこうとしたが男の手はびくともしない。 (なんて力……いや、それよりなんだこいつの手の冷たさは!? まるで体の熱が全部持っていかれるみたいだ……) 「やれやれ、大人しくしていれば手荒なことはしなくてもよいのに。言っただろう、私は君の味方だ、もっとも私の場合は貴族だけではなくて、人間という種そのものが嫌いだがね」 (やっぱり、こいつ人間じゃない!?) 抵抗する力を失っていきながら、フーケははっきりと恐怖を感じ始めていた。 だが、それでも残った勇気を振り絞って彼女は言った。 「な、何者だ、お前は?」 「おや、そういえばまだ名乗っていなかったね。失礼、私の名はヤプール、いずれこの世界を破壊する者だ」 「ヤ、ヤプールだと!?」 フーケもその名を知らないわけが無い。突然現れてトリステインを壊滅寸前に追いやった侵略者。 彼女はその様子を他人事、むしろいい気味だと思って見ていたのだが、なぜそいつが自分のところへ来るのだ。 「そう、我々はこの世界を見つけて手に入れることにした。ベロクロンは君達の国を難なく滅ぼせるはずだったのだが、あいにくこの世界にも邪魔者がいてね」 「邪魔者だと? それって」 フーケの脳裏に、あのウルトラマンAと呼ばれている銀色の巨人の姿が浮かび上がった。 「そう、ウルトラマンA、我々の不倶戴天の敵さ。奴を倒さなければ我々はこのちっぽけな国さえも奪うことはできない。だがあいにく今我々にはAを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無くてね。そこで君に協力してほしいのさ」 「協力? ふざけるんじゃないよ!!」 「だから代わりに君の願いも叶えてあげようというのさ。なに、君はこれまでどおり怪盗をしていればいい。君には新しい力と、強い味方をつけてあげよう」 ヤプールがそう言うと、その手のひらに小さな光と、続いて黒い霧のようなものが吹き出して、黒い蛇のような形をとった。 小さな光はフーケの肩に止まり、黒い蛇はフーケの首筋に巻きついてうれしそうに首を揺らしている。 「ふっふっふっ、そうか、そいつの心の闇は気に入ったか」 「な、何をする気だ?」 フーケは恐怖に怯えながらもかろうじてそう言ったが、ヤプールはおぞましげな笑いを浮かべると冷酷に黒い蛇に命令した。 「さあ、乗り移れ、ガディバ」 「ひっ!! やっ、やめろぉーーっ!! わぁぁぁーーっ!!」 異次元空間にフーケの絶叫とヤプールの哄笑が響いた。しかし、誰もそれを聞いていた者はいない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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7.灼眼のルイズ (ルイズ) 女 髪が短くボーイッシュな外見。性格も少し威圧的であるが、精神的には弱い。打たれ弱く、状況に混乱することも多々ある。 外見や性格の割には運動神経が乏しいため、自分の中で葛藤を抱えている部分も見られる。 自信をなかなか持てず、ひとりという環境が苦手なため、必ず誰かに頼ろうとする。その部分が他人にとっては迷惑、鬱陶しがられることもしばしば。言われたことは出来る、だが自分からするのは苦手。人に暴力を振るうのは平気だが、傷を負わせるレベルまで行くと強い罪悪感に襲われる。 頭はそれなりに働く方で、臨機応変な判断が出来る(ただしそれを行う実行力はあまりない) 武器の扱いに関しては出来ない方だと言える。 過去にいろんなことから逃げてきたのか、何事からも逃げだそうとする姿勢がときどき見られる。